131 ドビュッシー ベルガマスク組曲のレコードから 最初に取り上げたいのは、なんと言ってもこれ― ドビュッシー:ベルガマスク組曲 1969.3.20 同:舞曲 同:夢想 同:ピアノのために 以上、1969.4.15 同:2つのアラベスク 1969.9.17 同:バラード 1969.4.15 アルド・チッコリーニ(ピアノ) パリ、サル・ワグラム 仏Pathe Marconi 2C063-10753 (LP) ジャケットはOdilon Redonの"Muse sur Pegase" 左は仏盤、右は国内盤。いずれも(予備に・笑)2枚ずつ所有しています。 はじめてこの作品を聴いたのはギーゼキングのレコードでしたが、開眼したのはこのチッコリーニ盤です。高校生の時に買ったのはもちろん国内盤。以来の愛聴盤です。チッコリーニは私のもっとも好きな、またレパートリーの広いピアニストですが、個人的にはこれが最高傑作。 チッコリーニに関して、私が大好きなエピソードを― 音楽院を卒業して16歳でデビューしたチッコリーニ。しかしはじまるはずだった地方でのキャリアは戦争によって中断され、父を亡くし、家族を養うためにバーでピアノを奏くことに。そこでは誰もピアノなどにはお構いなく、聴いてもらえないなかでピアノを奏く日々・・・。そんなある日、あるホテルのバーで奏いていると、アメリカのユダヤ人パイロットがやって来て、ブラームスを奏いてくれとリクエストしてきた。喜んで演奏すると、次にベートーヴェンを奏いてくれるようにと頼まれ、30分間・・・すると彼は叫んだ― 「君、君は将来カーネギーホールで奏くよ!」 「どうして、冗談じゃない、からかうんじゃないよ! ご覧のとおり、ぼくは無一文で、家族を食べさせなくちゃいけないから、こうしてピアノ・バーで奏いているんじゃないか!」 そして1951年、チッコリーニがカーネギーホールでニューヨーク・フィルハーモニックと共演したその夜、楽屋の扉が開いて、入ってきたのはあのアメリカ人― 「君、ぼくが言ったとおりだろう!」 フランク:前奏曲、コラールとフーガ ドビュッシー:ベルガマスク組曲 シャブリエ:「10の絵画的小品」から「風景」、「スケルツォとワルツ」 1967.12 ルーマニアElectrecord ECE0345 (LP) Electrecordのみの発売で、エネスコ音楽祭かなにかの招待時の録音ではないかと思われる。ベルガマスク組曲は上記VMS録音に先立つ初録音。Electrecordにはこのほか、1961年にドビュッシーの前奏曲集第一巻、スカルラッティ、シューベルト、リストの録音があり、このフランク、ドビュッシー、シャブリエとともに先ごろCD化されている。 Aldo CiccoliniによるSuite Bergamasque、1979年2月4日のTV収録から― Aldo CiccoliniによるSuite Bergamasque、1987年スカラ座におけるリサイタルのlive収録から― このほか、手許にあるベルガマスク組曲のレコードは― ドビュッシー:子供の領分 同:ベルガマスク組曲 ワルター・ギーゼキング(ピアノ) 1953.8.17, 18, 1951.9.26, 27 仏Pathe Marconi 2C061-01029 (LP) ドビュッシー:子供の領分 同:版画 同:ベルガマスク組曲 同:ピアノのために サンソン・フランソワ(ピアノ) 1968, 1969 仏Pathe Marconi 2C069-12136 (LP) ドビュッシー:ベルガマスク組曲 同:2つのアラベスク 同:子供の領分 同:レントより遅く 同:小さな黒人 ミシェル・ベロフ(ピアノ) 1979,12, 1980,1 仏Pathe Marconi 2C069-73020 (LP) ドビュッシー:2つのアラベスク 同:ベルガマスク組曲 同:子供の領分 アラン・プラーネス(ピアノ) 荒川区民会館、1979.11.6/8 日本コロムビア OX-7187-ND (LP) ギーゼキング盤はジャケットがAubrey Beardsley。ときどき眺めたい(笑)サンソン・フランソワ盤は、大酒呑みに弱い私としては、どうしても持っていたいレコード(笑)と、これはいずれも半分くらいは冗談で、どちらも「大好き」とまでには言えない演奏です。良くも悪くも、大物ピアニストが趣向を凝らして繰り広げた演奏といった趣で、妙な言い方ですが、どうもピアニスティックに過ぎると感じます。もうすこし自然体で、作品そのものに語らせて欲しい。とくにギーゼキングはコロコロと可愛らしい音で彫りが浅い、それでいて表情に「わざとらしさ」が感じられるあたり、違和感が大きい。 ミシェル・ベロフはなんともピアノの音が汚い(笑)余分な共振音(附帯音)がまとわりついているような、濁った響き。オーディオマニアの家に持って行き、このレコードをかけてもらって「どこか共振してない?」なんてやったら相手は青ざめるかも。ところが、どうも聴いていると、これも個性と思えてきて、癖になってしまう。演奏そのものはストレートで小細工を感じさせない、なかなかいいんですよ。 アラン・プラーネスはチッコリーニと同様、作為のない自然体が魅力です。ただし、後の再録音(CD)を聴くと、よりいっそう表現が深まっていて、比較してしまうと、このレコードの演奏にはわずかな「構え」があると気付かされます。 ・・・と、プラーネスのCDの話が出てしまったので、これより続けてCD篇。いいものは意外と少なくて、どうしても取り上げておきたいのは次の4点― ドビュッシー/ピアノ作品全集 アラン・プラーネス(ピアノ) 1996-2006(ベルガマスク組曲は2005.5) harmonia mundi HMX2908209.13 (5CD) ドビュッシー/ピアノ音楽全集 アルド・チッコリーニ(ピアノ) 1991.4(ベルガマスク組曲は1991.4) 東芝 TOCE-9736~40 (5CD) いずれも全集セットもの。どちらもいい演奏ですが、チッコリーニは基本的には同じスタイルながら1969年の方がより好き。対してプラーネスは上記のとおり、この再録音を一段上と感じます。 ドビュッシー/ピアノ作品全集 ジャン=エフラム・バヴゼ(ピアノ) 2006-2009(ベルガマスク組曲は2008.2.27-29) CHANDOS CHAN10743 (5CD) ドビュッシー:子供の領分 同:ベルガマスク組曲 同:6つの古代墓碑銘 同:ピアノのために ジョルジュ・プルーデルマッハー(プルデルマシェール)(ピアノ) 1994.4 harmonia mundi HMC901504 (CD) この2点も、どうしても付け加えておきたい。ふたりともずっと注目してきたピアニスト。バヴゼは意外にもやや線が太いと感じる響き(ピアノはsteinway)。明快系。あとわずかに、繊細なニュアンスが欲しいところ。プルーデルマッハーは入念な表情付けながら、嫌味にならないところがこの人らしい。 (おまけ) もともとチッコリーニについて語ろうかと思っていたので― Aldo Ciccolini、ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番の第1楽章。1958年1月5日、カナダでのTV収録から― Aldo Ciccolini、ラヴェルのピアノ協奏曲。1993年11月27日、live収録から― 生涯現役で、2005年に89歳で亡くなられました。私はこの人の写真を額装して、レコード部屋に飾っています。 (Hoffmann) |