138 ブラームスの編曲もののdisc




 ブラームス作品の編曲ものといえば真っ先に取り上げたいのはこれ―

ブラームス~シェーンベルク編曲:ピアノ四重奏曲第1番(オーケストラ版)
若杉弘指揮 ケルン放送交響楽団
1978.3.17
独Koch Schwann VMS2072(LP)


 これは「036 若杉弘の演奏会とレコードから」でも取り上げています。そのときのコメントを引用しておくと―

 上記LPには記載されていませんでしたが、Altusから出たCDで録音データが明らかになりました。それによるとlive録音だということです。

 ブラームスのピアノ四重奏曲第1番のシェーンベルクによるオーケストラ編曲版。1970年代の録音で独Koch/Schwannから出たLPです。もちろん国内盤が発売されたことはないんですが、昔から一部では有名な録音でしたね。このシェーンベルク編曲版はクレンペラーが好んでよく演奏会で取りあげていたらしいんですが、録音はこの若杉盤より以前には1点か2点しかなかったんじゃないかな。ラトル盤、ティルソン・トーマス盤はこれより後。ちなみにラトルはシェーンベルク寄り、ティルソン・トーマスはブラームス寄りといった演奏でその対照がなかなかおもしろい。若杉弘はどちらかといえばブラームスの音楽(旋律)重視のようでいて、随所で「響き」―つまりシェーンベルクによるorchestrationへの配意が感じとれるあたり、ユニークな演奏となっています。私の大好きなレコードで、いまはAltusからCDで出ています(ALT204)。

 ・・・というわけで、ラトル盤、ティルソン・トーマス盤はさほどの愛着もありません。このほかにも同曲のレコードは聴いたことがありますが、個人的には若杉盤がベスト。もうひとつ、CDで所有しているのがこちら―


Brahms arr. Arnold Schoenberg:Piano Quartet op.25
Brahms arr. Luciano Berio:op.120 No.1 Clarinet and Orchestra
James Campbell, clarinet
Geoffrey Simon, London Symphony Orchestra
GALA CACD1006 (CD)


 ジェフリー・サイモンのCD。ベリオ編曲によるクラリネット・ソナタop.120 No.1のオーケストラ伴奏版もたいへん美しい。やや客観的というか、すまして演奏しているような印象も。いかにもイギリス風?

 ベリオによる編曲ものを集めたdiscがあって―

Schubert arr. Luciano Berio:Rendering
Brahms arr. Luciano Berio:Sonata. op.120 No.1
Mahler arr.Luciano Berio:Sechs fruehe Lider
Roderick Williams, baritone
Michael Collins, clarinet
Edward Gardner, Bergen Philharmonic Orchestra
2011.8.16-19
CHAMDOS CHSA5101 (SACD)


 "Rendering"はシューベルトの未完に終わった「交響曲第10番ニ長調D.936A」のスケッチの謂わば補筆完成版。マーラーの「若き日の歌」とブラームスのクラリネット・ソナタはベリオによる編曲というか、オーケストレーションですね。クラリネットのマイケル・コリンズもいい。


Brahms arr. Geer van Keulen:Sonate op.120/1
Schumann arr. Geer van Keulen:Fantasiesytuecke op.73
Brahms arr. Geer van Keulen:Sonate op120/2
Arno Piters and members of The Royal Concertgebouw Orchestra
2012
CHALLENGE CLASICS CC72572 (SACD)


 これもブラームスによるクラリネット作品の編曲集です。クラリネット・ソナタ第1番と第2番、それにシューマンの幻想小曲集のピアノ・パートを弦楽五重奏に移し、クラリネット六重奏版に編曲したもの。演奏はコンセルトヘボウ管弦楽団のメンバー。ゲール・ファン・クーレンはクラリネットのスコアには変更を加えず、原曲のピアノ・パートのみを編曲しています。わりあい穏健な編曲。


Brahms arr. Brahms:Quintet for Clarinet and String Quartet, Op. 115
Brahms arr. Brahms:Trio for Viola, Cello and Piano, Op. 114
Eric Gorevic, viola
Eric Lewis, vioin
John Dexter, viola
Matthias Naegele, cello
Judith gordon, piano
2009.1.3-6
CEUNTAUR CRC3051


 これはクラリネット五重奏曲 op.115とクラリネット三重奏曲 op.114のヴィオラ版。厳密に言うと、編曲版というほどのものでもありませんが、なかなか新鮮で愉しい。。


Brahms arr. Iain MacPhail:The String Sextet op.36 &18
Benjamin Hudson, The Stuttgart Chamber Orchestra
2002.3.6, 7., 7.25,26
MONO PLAY GI-2069 (CD)


 これは弦楽六重奏曲第1番と第2番の弦楽合奏版。これも編曲版と呼ぶようなものでもありません。弦楽合奏になるとややムードに流れる気味も。


Brahms arr. Dejan Lazic:Piano Concerto no.3 after Violin Condcerto op77
Brahms:2 Rhapsodies op.79
Brahms:Scherzo op.4
Dejan Lazic, piano
Robert Soano, Atlanta Symphony Orchestra
2009.10
CHANNEL CLASSICS CCS SA 29410


 ブラームスのピアノ協奏曲第3番・・・と、これはヴァイオリン協奏曲のピアノ版。ベートーヴェンは自分で編曲していましたが、これはここでピアノを奏いているクロアチアのピアニスト、デヤン・ラツィクによる編曲。いうまでもなく、ブラームスに新作が望めないわけですから、こうした試みは、個人的には大歓迎です。結構愉しめる音楽になっています。


Brahms arr. Kenneth Woods:Piano Quartet No.2 op.26
Kenneth Woods, Englesh Symphony Orchestra
2017.11.19
NIMBUS ALIANCE NI 6364/JP (CD)


 これがまたユニークなdiscです。イギリスの指揮者ケネス・ウッズが、ブラームスのピアノ四重奏曲第2番をオーケストラ版に編曲して自らレコーディングしたdisc。なんでもケネス・ウッズは、この編曲が完成するまでは、シェーンベルクによる編曲のピアノ四重奏曲第1番のスコアを見ないで、もちろん演奏もしないでコトにあたったんだとか。たしかに、ブラームスの書法になっているなと感じさせます。


Brahms arr.Joseph Swensen:Sinfonia(original 1854 version of Trio op.8)
Clara Schumann arr.Joseph Swensen:3 Romances for violin and orchestra(1853)
Schumann arr.Joseph Swensen:Intermezzo from "F-A-E" Sonata for violin and orchestra(1853)
Brahms arr.Joseph Swensen:Scherzo from "F-A-E" Sonata for violin and orchestra(1853)
Joseph Swensen(Conductor and Violinist), Malmoe Opera Orchestra
2009.3.23-27
signum CLASSICS SIGCD191 (CD)


 アメリカの指揮者ヨゼフ・スヴェンセンのオーケストレーション。スヴェンセンは2007年から2011年までスウェーデンのマルメ歌劇場の首席指揮者を務めていたので、その時期の録音です。「シンフォニア」はブラームスのピアノ三重奏曲第1番 op.8の編曲版。クララ・シューマンの作品、ロベルト・シューマンとブラームスのF.A.E.ソナタの間奏曲とスケルツォも同じく編曲版で収録されています。弦楽主体でわりあい雰囲気で聴かせる編曲。


Brahms:String Quintet No.2 op.111 arr.for string orchestra
Schoenberg:Verklarte Nacht op.4 version for string orchestra
Sandor Vegh, Camerata Salzburg
1991.10.26-27., 11.1-2
CAPRICCIO 10 427 (CD)


 ブラームスの弦楽五重奏曲第2番の弦楽合奏版。編曲者は不詳ですが、おそらくシャンドール・ヴェーグ自身で、「編曲」と銘打つほどの編曲ではないと判断してクレジットしなかったものと思われます。こうして弦楽合奏版で続けてブラームスとシェーンベルクを続けて聴くと、シェーンベルクの「浄夜」の後期ロマン派の側面が際立ってきますね。


 どうれも愉しめることはたしかですが、こうして次々と聴いてみてつくづく思うのは、やはりシェーンベルクやベリオといった大作曲家の編曲は違ったものだということです。これは私の勝手な推測なんですが、演奏家というのは、自分(たち)が演奏することを考えて、別に楽をしようというのではなくても、「現場感覚」が足かせになっているんじゃないでしょうか。


(Hoffmann)