145 「シャコンヌ」の編曲版のレコード




 「シャコンヌ」、すなわちバッハの「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ」の中の「パルティータ第2番 BWV 1004」の第5楽章。その編曲版のレコードを取り上げます。

"Yuji plays Bach"
高橋悠治(ピアノ)
1975.7
日DG ME5001 (LP)


 高橋悠治、ケンプ、ヘス、ブゾーニによるバッハ有名曲の編曲集。「シャコンヌ」はブゾーニによる編曲版を収録。CDでも出ていました(POCG-6100)。

 このレコードは中学生の時入手して以来の愛聴盤です。鑑賞するバッハではなく、高橋悠治が自ら「奏くため」のバッハ。いっぱしの研究者気取りで(ということは研究者ですらないのに)、バッハの様式がどうとか古楽器がどうしたとか言って守備範囲を狭めているひとがよくいるんですが、私の場合、こうした演奏も愉しめる感受性を保っていられた方が幸せです。


高橋悠治


"Chaconne pour la main gauche"
アンドレ・ゴログ(ピアノ)
1975またはそれ以前
仏CHORUS 19 734 (LP)


 表題は「左手のためのシャコンヌ」。ブラームスが編曲した左手だけで弾く、「左手のためのシャコンヌ」で、クララ・シューマンが夫ロベルト・シューマンの死後、生活のためにピアニストとして生計を立てていたところ、負傷により右手が使えなくなった時期があり、その際にブラームスが「シャコンヌ」を左手だけで演奏できるように編曲して、彼女に捧げたらしい。原曲よりも1オクターブ下げているが、原曲には忠実。ヴァイオリン独特の音の配列のところで、ピアノでは奏きにくそうなところは和声の響きを活かして編曲している・・・とのこと。「シャコンヌ」のほか、リスト編曲による前奏曲とフーガ イ短調 BWV543なども収録。

 ゴログは1938年パリ生まれのピアニスト。父親はハンガリー出身。マルグリット・ロンの最後の弟子であり、フラームス、ショパン、リストのレコードが録音されている。1980年代からはパリのエコールノルマル音楽院で教鞭を執った、教育者としても名高い人。

 ブゾーニとはまた違った響きが新鮮です。先入観もあるかも知れませんが、なるほどブラームスの編曲らしく聴こえます。ところで、ブラームスはこの時クララに下心があったとする、やや穿った見方もあるそうなんですが、作曲家を聖人君子でなければならないと考えているような人が聞いたら、きっと怒り出すんでしょうな(笑)


Andre Gorog


"Alirio Diaz Line Guitare pour Jean Sbactien Bach"
アリリオ・ディアス(ギター)
1968頃
仏La Voix De Son Maitre CVD 2153 (LP)


 セゴビアによるギター編曲版。アリリオ・ディアスは1923年ベネズエラ生まれ。1950年に地元のラジオ局が主催した初のリサイタルは、バッハ没後200周年の記念行事。バッハを得意にしており、スペインではレヒーノ・サインス・デ・ラ・マーサ(アランフェス協の初演者)に師事。3年後には、セゴビアの助手として活動。

 クラシック・ギターを習ったことのあるひとなら御存知と思いますが、レッスンでは結構バッハが取り上げられるんですよね。なので、ギターによる「シャコンヌ」というのも、案外と違和感がありません。


Alirio Diaz


 オーケストラ編曲版は取り上げないのかと思われるかも知れませんが、バッハ作品のオーケストラ編曲版は、シェーンベルクによる前奏曲とフーガ変ホ長調 BWV552あたりを聴いてしまうと、その他のものは相当聴き劣りがするので、ほとんど聴くことがありません。


(Hoffmann)