146 バッハの無伴奏チェロ組曲のdiscから




 BWV1007~BWV1012の全6曲の全曲録音のみ取り上げます―

 LP篇

パブロ・カザルス(チェロ)
ロンドン、パリ、1936, 1938, 1939
東芝 GR-2317~19 (3LP)


 この作品が練習曲集としてほとんど忘れられていたところ、「再発見」したのがパブロ・カザルスですからね。おかげでいまやチェリストの聖典。カザルスの功績ははかりしれないものがあります。もちろん、永遠の名演とされる録音であり、後世に与えた影響も大。私がはじめてこの作品を聴こうというときに買ったのがこのレコード。とはいえ、いま聴けばなんだかモゾモゾ奏いているように聴こえて・・・おっと、石が飛んできそうなので自粛しますよ(笑)いや、ときどき取り出して聴いています。別にstereoの優秀録音でなければ困るような音楽ではありませんからね。録音の詳細を記しておくと、2番と3番が1936年ロンドン、1番と6番が1938年、4番と5番が1939年のパリ録音。

 もともとSP音源でCOLHシリーズがLPの初出。これは東芝のGR盤。高校生のときに買ったもの。以下、私の手許にあるLPは、カザルス、フルニエともに国内盤。どれも私としてはわりあい早い時期に、つまり学生時代に買ったものだから。海外プレス盤で買い直そうとか、あまり考えたことはありません。


ピエール・フルニエ(チェロ)
ベートーヴェンザール、ハノーファー、1960, 1961
日DG MA3023/5 (3LP)


 セッションによるstereo録音。バッハ研究の先生が悪く言うもんですから、影響されやすい単純な人たちはあまりフルニエなんか聴かなくなったようですが、これだけ気品のある演奏はなかなかありません。よい意味でスケールも大きい。


ピエール・フルニエ(チェロ)
スイス・ジュネーヴ・聖ボニファース教会、
BWV1007,1008:1976.10.9-10
BWV1009,1010:1977.4.27-29
BWV1011,1012:1977.5.4-5
日PHILIPS 25PC-166~68 (3LP)


 フルニエの再録音。originalは仏FESTIVALのCFC 60014らしい。良くも悪くも、いかにも枯れた印象。

 なお、フルニエの録音はこのほかに1959年10月のジュネーヴにおける放送用liveのmono録音と、1972年の東京liveがあります。いずれも聴いたことはあるんですが、いまLPもCDも手許に見当たりません。


ポール・トルトゥリエ(チェロ)
1960.
英EMI SLS798 (3LP)


 stereoによるセッション録音。じつはこれがもっとも好きな盤。典雅なフルニエに対して、自己を滅却したかのようなストイックな演奏。なお、original盤であるASDF217-219は滅多に見つからないし、見つかっても高くて買えない(笑)トルトゥリエというと、ちょっとした小品でも真面目に、真摯に演奏する人なんですが、伝え聞くエピソードには、リサイタルのアンコールで、チェロをギターのようにかき鳴らしながら自作の歌を歌った、というものもあります。案外とお茶目なところもあったんですね。そんなところも大好きです。


ポール・トルトゥリエ(チェロ)
ロンドン、テンプル・チャーチ、1983.
英EMI SLS1077723 (3LP)


 DMM盤、故に独プレス。トルトゥリエの再録音。個人的には1回目の録音の方が好きなんですが、これはこれで悪くありません。なんだか、「自由」になったという印象、それでいて「矩を越えず」の境地か。


 CD篇


ダニール・シャフラン(チェロ)
1969-1974
Venezia CDVE00514 (14CD)


 ふっふっふっ・・・ロシアのVENEZIAから出た「ダニール・シャフランの芸術」14CDセットですぞ(笑)収録曲は省略、知りたい人は検索して下さいまし。シャフランは父親がレニングラード・フィルハーモニー管弦楽団の首席チェロ奏者。6歳からチェロを始め、9歳でレニングラード音楽院に入学、10歳でデビューという早熟の天才。14歳で全ソ連弦楽器コンクールに優勝して、1949年、ブダペストのコンクールでロストロポーヴィチとともに優勝、翌1950年にはプラハの春国際音楽コンクールでも、同じくロストロポーヴィチとともに優勝しています。我が国にも6回来日していますね。

 とにかくダイナミクスの抑揚が大きい、奔放な演奏なんですが、聴いているとクセになる。かなり強烈な個性派。ああ、おそロシア。これだけ変幻自在だと様式がどうとか言っている方がばかばかしく思えてきますな。チェロ界のイヴリー・ギトリス?


シギスヴァルト・クイケン(ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラ)
2007
ACCENT ACC24196 (2CD)


 ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラによる演奏。所謂「肩のチェロ」。ヴァイオリンやヴィオラと同じ構えで演奏する小型チェロで、この録音で使われている楽器は、ドミトリー・パディアロフによって2004年に製作・完成されたもの。なんでもクイケンは以前から、バッハの音楽は現在の膝に挟むチェロで演奏されていたのかと疑問を抱き、1740年前後まではこの「肩のチェロ」が存在していたのではないか考えたんだとか。じっさい、バッハのカンタータではチェロのパートが通常の声部ではなく、ヴァイオリン声部に書かれているなどの「状況証拠」もあり、さまざまな記録をもとにヴィオロンチェロ・ダ・スパッラを復元したんだそうです。その是非は分かりませんが、聴く楽しみが増えるのは歓迎です。


リリアン・フックス(ヴィオラ)
1番、3番:1954年5月14,17,26日
2番、6番:1951年5月3,7,8日
4番、5番:1952年5月16日(4,5)
Biddulph 85002-2 (2CD)


 ヴィオラ版の、セッションによるmono録音。音質のよい復刻の英BiddulphのCD。

 以下の2曲を併録。

モーツァルト:ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲変ロ長調 K.424
マルチヌー:ヴァイオリンとヴィオラのための「3つのマドリガル」

 こちらのヴァイオリンはリリアンの兄ジョセフ・フックス、録音は1950年6月12日。


キム・カシュカシアン(ヴィオラ)
ニューヨーク、アメリカン・アカデミー・オブ・アーツ・アンド・レターズ、
2016.11.28, 2017.2.4
ECM ECM2553/54 (2CD)


 これもヴィオラ版。


ジェラール・コセ(ヴィオラ)
ローラン・テルジェフ(朗読)
Auditorium de Pigna, Corse, France、2010.6, 2010.11
Virgin CLASSICS 50999 907665 2 7 (2CD)


 同じくヴィオラ版。コセの使用楽器は1560年製 Gaspard Da Salo。フランスの俳優ローラン・テルジェフによるリルケの詩の朗読が冒頭と楽曲の間に挟まれている。

 収録内容を示しておくと―

CD1
1 Pour ecrire un seul vers (リルケの詩)
2 J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第1番ト長調 BWV.1007
3 Chevaucher, chevaucher(リルケの詩)
4 J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第3番ハ長調 BWV.1009
5 Je voudrais devenier un de ceux-la(リルケの詩)
6 Avec un toit que suit son ombre(リルケの詩)
7 J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第6番ニ長調 BWV.1012

CD2
1 Quiconque pleure a present quelque part dans le monde(リルケの詩)
2 J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第2番二短調 BWV.1008
3 Seigneurr, donne a chacun sa propre mort(リルケの詩)
4 J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第4番変ホ長調 BWV.1010
5 Terre, n'est-ce pas ce que tu veux(リルケの詩)
6 J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第5番ハ短調 BWV.1011


 以上、ヴィオラ版による演奏のCD3点がありますが、どれもすばらしい演奏です。この3点があれば、個人的にはもう十分ですね。

 今回、意外とレコードもCDも持っているものは少ないなと思って、HMVやらTowerのサイトなど見てみたんですが、あまり興味を惹かないようなdiscが徒に並ぶばかり。これなら、中古LPの方にまだしも欲しいものが見つかります。


 DVD篇

ポール・トルトゥリエ(チェロ)
プラド、サン・ミシェル・ド・キュクサ修道院 、1990.7
VAI 4481 (DVD)


 パブロ・カザルス音楽祭liveのmono録音。制作・監督はペーター・アマン。4:3のNTSCでRegion AllのDVD。




(Hoffmann)