150 エディト・パイネマンのdisc




 エディト・パイネマンEdith Peinemannは1937年にドイツのマインツに生まれ。父親はマインツのオーケストラのコンサートマスターでした。その父の手ほどきにより4歳からヴァイオリンを始めて、その後ハインツ・シュタンスケ、マックス・ロスタルに師事、19歳の時にミュンヘン国際音楽コンクールで優勝。1960年代にアメリカ・デビューして、特にジョージ・セルに賞賛され、以後もたびたび共演を重ねています。そういえば、以下には挙げませんでしたが、セルのEMIへの録音で、シュワルツコップのR・シュトラウス歌曲集では、ヴァイオリン・ソロをパイネマンが奏いていましたね。1970年代以降は教育活動にも力を注ぐようになり、2005年から2011年まではESTA(ヨーロッパ弦楽器教育者協会)の最高責任者を務めたとのことです。


Edith Peinemann


 LP篇

 エディト・パイネマンのレコードとえば古くから有名なのはこれ―

ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲
ラヴェル:ツィガーヌ
 エディト・パイネマン(ヴァイオリン)
 ペーター・マーク指揮 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
 1965.7
DG 139 120 SLPM (LP)


 ラヴェルが見事な演奏。美音系。ドヴォルザークも同様ながら、こちらは個人的にはそれほどの演奏とも思えない。なぜ古くから持っているかというと、みんな欲しがる盤だから(笑)


ムカシ、某中古レコード店がこのジャケットの「コピー」を飾っていたら、「コピーをとったということは現物があるんだろう、出せ」と詰め寄ってきた客がいたんだとか(笑)


 あと、1970年代のレコードでブラームスのヴァイオリン・ソナタがある―

ブラームス:ヴァイオリンソナタ第2番、第3番
 エディト・パイネマン(ヴァイオリン)
 イェルク・デームス(ピアノ)
 1974.1
DARNOK DF2032 (LP)


DARNOKのDF2033が第1番とF.A.E.ソナタから間奏曲(シューマン)とスケルツォ(ブラームス)。つまりバラ2枚で全曲揃うが、私はDF2033は所有していない。

 まずまずのレア盤であることは間違いないものの、個人的にはこの2枚を聴いてパイネマンのレコードを探したくなるほど魅惑されることはありませんでした。

 むしろ、以下のWEITBLICKのLPや発掘されたCDによって、その実力と魅力に気がついたというのが本当のところ。


ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 Op.64
メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲
 エディト・パイネマン(ヴァイオリン/使用楽器:伝ダニエル・パーカー)
 ジョージ・セル指揮(ベートーヴェン)
 ヨーゼフ・カイルベルト指揮(メンデルスゾーン)
 ケルン放送交響楽団
 1964.6.11、ケルン放送会館クラウス・フォン・ビスマルクホール(ベートーヴェン)
 1960.5.6、 ケルン放送会館クラウス・フォン・ビスマルクホール(メンデルスゾーン)
 mono live
WEITLP-003/04 (2LP)

シベリウス:ヴァイオリン協奏曲
プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲第1番
 エディト・パイネマン(ヴァイオリン/使用楽器:グァルネリ・デル・ジェス)
 ヨーゼフ・カイルベルト指揮(シベリウス)
 ギュンター・ヴァント指揮(プロコフィエフ)
 ケルン放送交響楽団
 1967.10.27、ケルン放送会館クラウス・フォン・ビスマルクホール(シベリウス)
 1975.10.10、ケルン放送会館クラウス・フォン・ビスマルクホール(プロコフィエフ)
stereo live
WEITLP-005/6 (2LP)


 「エディト・パイネマン ケルン放送未発表スタジオ録音集」
シューベルト:ヴァイオリンとピアノのための幻想曲 ハ長調 D.934
シューベルト:ヴァイオリン・ソナタ第3番 ト短調 D.408
モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ第35番 ト長調 K.379
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第2番 イ長調 Op.12-2
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第7番 ハ短調 Op.30-2
ブラームス:「F.A.E. ソナタ」よりスケルツォハ短調
 エディト・パイネマン(ヴァイオリン)
 ロバート=アレクサンダー・ボーンケ(ピアノ)D.934
 イェルク・デムス(ピアノ)D.408、Op.12-2、ブラームス
 ヘルムート・バート(ピアノ) K.379、Op.30-2
 1957.6.23(D.934)、1966.6.24(D.408)、1967.10.4(K.379、Op.30-2)、1966.4.26(Op.12-2、ブラームス)、ケルン放送協会放送会館、mono
WEITLP 023/025 (3LP)


 「パイネマン ベルリン・リサイタル1970・1982」
シューマン:ヴァイオリン・ソナタ第1番 イ短調 Op.105
ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第2番 イ長調 Op.100
シューベルト:ヴァイオリン・ソナタ(ソナチネ)第3番 ト短調 D.408
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第4番 イ短調 Op.23
 エディト・パイネマン(ヴァイオリン)
 ヘルムート・バルト(ピアノ)
 1970.11.5(Op.105、Op.100、D.408)1982.6.22(Op.23)、自由ベルリン放送第3ホール
WEITLP034/035 (2LP)


 「パイネマン ベルリン・リサイタル1987」
シューベルト:ロンド イ長調 D.438
ドヴォルザーク:4つのロマンティックな小品 Op.75
モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ第32 番 変ロ長調 K.454
シューベルト:幻想曲 ハ長調 D.934
 エディト・パイネマン(ヴァイオリン)
 レオナルド・ホーカンソン(ピアノ)
 1987.5.19, 21、自由ベルリン放送第3ホール
WEITLP044/045 (2LP)


 協奏曲では、ジョージ・セル、ヨーゼフ・カイルベルト、ギュンター・ヴァントと、錚々たる指揮者との共演が残されていた。なかでも、カイルベルトのシベリウスというのは意外。シベリウス演奏として決して場違いな印象はなく、特段「ドイツ的」とも感じない。意外とモダンな感覚。個人的には協奏曲ではベートーヴェンとメンデルスゾーン、リサイタルではシューマン、シューベルトが好き。


Edith Peinemann


 CD篇

ブラームス:ヴァイオリン協奏曲
 ズデニェク・マーカル指揮 バンベルク交響楽団
シベリウス:ヴァイオリン協奏曲
 カール・アントン・リッケンバッハー指揮 北ドイツフィルハーモニー管弦楽団
JOY CLASSICS JOYCD-9000 (CD-R)


 やっぱり気迫型ではない、あくまで美しく・・・という路線。ただし、このCD-Rは我が家のCDプレーヤーでは音飛びがする。


"Edith Peinemann WDR Concerto Recordings"
ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲ニ長調 op.61
 ジョージ・セル指揮 ケルン放送交響楽団
 1964.6.11 mono
プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲第1番ニ長調 op.19
 ギュンター・ヴァント指揮 ケルン放送交響楽団
 1975.10.10 stereo
シベリウス:ヴァイオリン協奏曲ニ短調 op.47
 ヨーゼフ・カイルベルト指揮 ケルン放送交響楽団
 1967.10.27 stereo
メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲ホ短調 op.64
 ヨーゼフ・カイルベルト指揮 ケルン放送交響楽団
 1960.5.6 mono
 すべてケルン放送ビスマルクザールでのlive録音、音源はWDRケルン放送
 エディト・パイネマン(ヴァイオリン)
WEITBLICK SSS0204/0205-2 (2CD)


 これはLPで所有しているものと同じ内容。


"Edith Peinemann WDR Recital Recordings"
1. ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第7番ハ短調 op.30-2
2. モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ第27番ト長調 K.379
3. シューベルト:ヴァイオリン・ソナタ第3番ト短調 D.408
4. ブラームス:F.A.E.ソナタよりスケルツォ ハ短調
5. ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第2番イ短調 Op12-2
6. シューベルト:幻想曲 ハ長調 D.934

 エディト・パイネマン(ヴァイオリン)
 ヘルムート・バース(ピアノ:1,2)
 イェルク・デムス(ピアノ:3-5)
 ロバート・アレクサンダー・ボーンク(ピアノ:6)
 1967.10.4(1,2)、1966.6.24(3)、1966.4.26(4,5)、1957.6.23(6)
 すべて放送用セッションのmono録音、音源はWDRケルン放送
WEITBLICK SSS0213/0214-2 (2CD)


"Edith Peinemann SFB Recital Recordings in Berlin"
エディト・パイネマン、SFB(ベルリン)未発表録音集
1. シューマン:ヴァイオリン・ソナタ第1番イ短調 Op.105
2. ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第2番イ長調 Op.100
3. シューベルト:ヴァイオリン・ソナティナ第3番ト短調 D.408
4. スーク:ヴァイオリンとピアノのための4つの組曲 Op.17
5. ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第4番イ短調 Op.23
6. シューベルト:ヴァイオリンと弦楽合奏のためのロンド イ長調 D.438(ピアノ伴奏版)
7. ドヴォルザーク:ヴァイオリンとピアノのための4つのロマンティックな組曲 Op.75
8. モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ 変ロ長調 K.454
9. シューベルト:幻想曲 ハ長調 D.934
 エディト・パイネマン(ヴァイオリン)
 ヘルムート・バース(ピアノ:1-5)
 レナード・ホカンソン(ピアノ:6-9)
 1970.11.5(1-3)、1982.6.22(4,5)、1987.5.19,21(6-9)
 すべてベルリン、SFBザール3での放送用セッションのstereo録音
WEITBLICK SSS0228/0230-2 (3CD)


"Edith Peinemann The SWR Studio Recordings 1952-1965"
Disc1
1. ヴィターリ:シャコンヌ ト短調
2. ヘンデル:ヴァイオリン・ソナタ ホ長調
3. レーガー:ヴァイオリンとピアノのための組曲イ短調 Op.103a
4. ヒンデミット:ヴァイオリンとピアノのための瞑想曲
5. フランク:ヴァイオリン・ソナタ イ長調
 ロベルト・パイネマン(ピアノ:1-4)
 ハインリヒ・バウムガルトナー(ピアノ:5)
 1952.12.12 Mainz, Deutschhaus, Kammersaal(1,2)
 1953.6.12 Mainz, Deutschhaus, Kammersaal(3,4)
 1957.1.25 Stuttgart-Unterturkheim, Krone(5)
Disc2
1. J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第1番ト短調 BWV.1001
2. J.S.バッハ:ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ ホ短調 BWV.1023
3. ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第7番ハ短調 Op.30-2
4. バルトーク:狂詩曲第1番 Sz.86
5. ラヴェル:ツィガーヌ
 ゲオルク・トゥーサン(チェンバロ:2)
 ハルトムート・エステルレ(チェロ:2)
 ヘルムート・バルト(ピアノ:3-5)
 1957.1.25 Stuttgart-Unterturkheim, Krone(1)
 1957.1.31 Mainz, Staatliches Institut fur Musik(2)
 1962.12.13 Mainz, SWF, FS(3)
 1962.12.12 Mainz, SWF, FS(4,5)
Disc3
1. ラヴェル:ハバネラ形式の小品(ジョルジュ・カトリーヌによるヴァイオリンとピアノのための編曲版)
2. スーク:4つの小品
3. モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ 変ロ長調 K.378
4. シューマン:ヴァイオリン・ソナタ第1番イ短調 Op.105
 マリア・ベルクマン(ピアノ:1,3,4)
 ヘルムート・バルト(ピアノ:2)
 1962.12.23 Baden-Baden, Hans-Rosbaud-Studio(1)
 1962.12.12 Mainz, SWF, FS(2)
 1965.9.18 Baden-Baden, Hans-Rosbaud-Studio(3,4)
Disc4
1. ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲イ短調 Op.53
1.I Allegro ma non troppo ? attacca 2.II Adagio ma non troppo 3.III Finale. Allegro giocoso ma non troppo
2. バルトーク:ヴァイオリン協奏曲第2番 Sz.112
4.I Allegro non troppo 5.II Andante tranquillo 6.III Allegro molto
 ハンス・ミュラー=クライ指揮、南ドイツ放送交響楽団(シュトゥットガルト放送交響楽団)(1)
 ハンス・ロスバウト指揮、南西ドイツ放送交響楽団(2)
 1958.3.5 Stuttgart, SDR, Villa Berg(1)
 1957.12.21 Baden-Baden, Hans-Rosbaud-Studio(2)

Disc5
1. プフィッツナー:ヴァイオリン協奏曲ロ短調 Op.34
2. シベリウス:ヴァイオリン協奏曲ニ短調 Op.47
 ハンス・ロスバウト指揮、南西ドイツ放送交響楽団(1)
 エルネスト・ブール指揮、南西ドイツ放送交響楽団(2)
 1957.12.21 Baden-Baden, Hans-Rosbaud-Studio(1)
 1965.9.16 Baden-Baden, Hans-Rosbaud-Studio(2)
 すべて放送用セッションのmono録音
 エディト・パイネマン(ヴァイオリン)
SWR CLASSICS SWR19074CD (5CD)



 公式録音数が少なくて「幻のヴァイオリニスト」なんて呼ばれていたわけですが、これだけいろいろ聴くと、その全貌とは言わないまでも、かなり分かってくることもあります。某shopのwebサイトでは、パイネマンのことを「男性的」なんて書いている例もありましたが、ミシェル・オークレールやジネット・ヌヴーに聴くことができるような気迫・熱情型ではありません。やはり世代の違いでしょうね。基本的にテンポは遅め、勢いをつけて突っ走る、なんてことはない。これといった強烈な個性を感じさせるわけではないんですが、フォルムが整っていて、どことなく高貴な印象があります。テクニックに関しては、シベリウスなどやや苦しいところもあるものの、清潔感があって、しかし即物的な冷たい演奏ではない。CDではプフィッツナーの協奏曲と、やはりシューマンのソナタが印象に残ります。あと、フランクのヴァイオリン・ソナタもこのヴァイオリニストの性向に合っているんじゃないでしょうか。

 webサイトといえば、パイネマンというと、やたら「美人」だの「美しすぎる」だのといったことばが踊っています。おそらくメーカー資料の「コピペ」なのだろうと思いますが、どうも「なんとかひとつ覚え」的軽薄さを感じるのはともかくとして、それで「売れる」とか、ましてや私が「買う」と思っているのかと、なんだか馬鹿にされているような気がします。だいいち、誰もが同じ意見だと思わないでもらいたいですね。現に、私の意見は異なります。私は「ふつう」だと思っています(「ふつう」って何?笑)

 なお、レーベルの資料によると、初期の録音ではチェコに近いクリンゲンタールのフィエカー製ヴァイオリン、あるいは1720年頃ロンドンのダニエル・パーカー製作の楽器を使用しており、1965年には1732年製グァルネッリGuarneri del Gesuを入手したとのことです。


(Hoffmann)