159 ブラームスの交響曲のdiscから その1




 ブラームスの交響曲のレコードを取りあげてみようと思います。

 さすがに名曲、人気もあるし、数多くの指揮者、オーケストラがレコーディングしていますから、長い間に、自然といろいろなレコードが集まってしまいました。

 今回は全集録音。手許にあるセットものと、バラで揃っているものを挙げてみます。煩雑になるので、レーベルのみ記載、録音年とカップリング曲(序曲など)とレコード番号は省略して、簡単なコメントだけつけておきます―


ラファル・クーベリック指揮 バイエルン放送交響楽団 ORFEO

 1983年の録音。かなり洗練された響きで、DG録音で聴けるクーベリック、バイエルン放送協交響楽団の音とはやや異なった印象。やや硬質なタッチで、高域寄りのバランスは、初期のORFEO録音の特徴ながら、透明度は高い。演奏は自然体と聴こえる、すばらしいもの。当初CBSからの発売が予告されていたところ、ORFEOから出たもの。

ラファエル・クーベリック指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 DECCA

 クーベリックの旧録音。DECCAらしく、マイクが近め。演奏もややせせこましく聴こえる。クーベリックとウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の録音なら、EMI録音の方が美しい。

レナード・バーンスタイン指揮 ニューヨーク・フィルハーモニック Columbia

 3枚組でオートチェンジャー用なので、2番以外は全曲聴きとおすには、盤を裏返すのではなく、交換する必要がある。米Columbia盤らしく、ややガチャついた音。

レナード・バーンスタイン指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 DG

 上記クーベリックのORFEO盤とほぼ同時期の発売だったので、当時聴き比べてみて、色彩感豊かなバーンスタイン盤に比べて、クーベリック盤が地味に感じられたという記憶がある。どちらかといえばクーベリックの方が好きだった。テンポの遅くなる箇所は、後のバーンスタインでより顕著になる特徴ながら、ここでは不自然さを解消できず、第4番など意識しすぎと聴こえる。録音はDGらしく、直接音主体。1981年頃の録音とあって、もはや奥行きなどの音場感は期待できない。ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の音色に助けられている印象だけに、やや刺激成分の多い録音は残念。

オイゲン・ヨッフム指揮 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 Electrola

 第1番コーダのティンパニの改変などが、これはヨッフムしかやっていないユニークなもの。SQエンコード盤だが、そんなに変な音はしない。ヨッフムは見た目は巨匠風だが、演奏はわりあいモダンな感覚。

カルロ・マリア・ジュリーニ指揮 (ニュー・)フィルハーモニア管弦楽団 Electrola

 若くして貫禄。柔らかなフレージングの妙。すばらしい。

ギュンター・ヴァント指揮 北ドイツ放送交響楽団 EMI(deutsche harmonia mundi)

 1982-1984年のセッション録音。なんと2枚組で、4曲とも片面収録という詰め込み盤。CDでも入手したが、deutsche harmonia mundiらしい硬質な音で刺激的。演奏も下記live盤の方が上。

ギュンター・ヴァント指揮 北ドイツ放送交響楽団 Profil

 2番のみ1992年、あとは1990年のlive録音。基本路線は変わらないが、上記旧録音よりも充実した好演。音を膨らませたりしない、痩身にして躍動感もあるブラームス。

ハンス・シュミット=イッセルシュテット指揮 北ドイツ放送交響楽団 ARTIPHON

 交響曲に関しては1967-1973年の録音。これは4枚組。ACANTAからも、ヴァイオリン協奏曲、管弦楽曲を含めた5枚組で出ていたと記憶している。録音は必ずしも万全ではないが、どこをとってもオーソドックスで、ブラームスらしい演奏という点では随一。

サー・ジョン・バルビローリ指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 EMI

 1966-1967年のセッション録音。総奏から木管などのソロに至るまで、暖かく、血が通っていると感じさせる。ブラームスの交響曲に限定せず、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の魅力を最大限に引き出している演奏はといえば、これ。

オットー・クレンペラー指揮 フィルハーモニア管弦楽団 EMI

 クレンペラーらしい、情感に溺れない厳しさが前面に出てくる、いかにも確信に満ちた演奏が展開される。木管などの扱いが際立つあたり、ドイツ的ではないが、底に流れる深いものを感じさせる演奏。

ギュンター・ヘルビヒ指揮 ベルリン交響楽団 ETERNA

 1978-1979年のセッション録音。終始ヴァイオリン群がリードする、いかにもドイツ的な演奏。それがブラームスの書法なのだと感じさせる。地味ながら、かなりすぐれた演奏。プレス数が少なかった模様で、ETERNA盤で4曲揃えるのは難しそう。徳間から国内盤も出ていたが、これも特段希少価値があるわけではなく、高い値段もつかないから、かえって探して見つかるというものでもない。もっとも、最近CDで全集として出たから、LPで持っている人が売りに出すかも知れない。

エドゥアルト・ファン・ベイヌム指揮 アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 PHILIPS

 stereo期の全曲録音だが、mono期にDECCAの第1番の見事な演奏を録音しているので、こちらはやや影が薄い。かつて国内廉価盤が、第2番と第3番を1枚に詰め込みで出していたので、国内盤だとかなり印象が悪い。4番をETERNA盤でも所有しているが、演奏、録音ともに上質。

ベルナルト・ハイティンク指揮 アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 PHILIPS

 若きハイティンクの録音。このころから黄金の中庸。個人的にはもうすこし個性が欲しいと思うが、ブラームスならこれも「あり」か。オーケストラの音色と、PHILIPSの自然な音場感の録音が魅力。この時期のハイティンクの録音のなかでは、比較的いい方だと思う。

サー・エイドリアン・ボールト指揮 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団、ロンドン交響楽団

 3番と悲劇的序曲のみロンドン交響楽団。そのほかはロンドン・フィルハーモニー管弦楽団。英国紳士風穏健派。悪くはないが、一か所だけテンポを変動させるなど、やや恣意的と感じられるところが気になる。オーケストラの音色はやや線が細いが、美しい。

ルドルフ・ケンペ指揮 ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団 BASF

 とくに2番、3番は響きに厚みが不足しているが、オーソドックスな好演。とはいえ、かつてのベルリン・フィルハーモニー管弦楽団との旧録音の方が上。2番はたしかケンペ最後の録音。

ブルーノ・ワルター指揮 コロムビア交響楽団 CBS

 良くも悪くもワルター晩年のコロムビア交響楽団とのレコーディングらしい。整ってはいるが、微温的。表情はひたすらロマンティックに傾く。

ブルーノ・ワルター指揮 ニューヨーク・フィルハーモニック Columbia

 1番や2番の終楽章コーダなど、荒れ狂ったような演奏。ニューヨーク・フィルハーモニック時代のワルターは、アメリカの聴衆を意識していたのではないか。オーケストラは下手ではないが、その後発掘された同時期のウィーン・フィルハーモニー管弦楽団との演奏などとくらべると、ニュアンス不足。

ジョージ・セル指揮 クリーヴランド管弦楽団 CBS

 録音のせいもあると思うが、禁欲的で、線が細い。よく言えば清潔感。整ったアンサンブルは決して非音楽的ではなく、ほのかに薫るロマンティシズム。悪い演奏ではないが、セルの場合、ほかに単独で、よりすぐれた録音がある。国内盤で聴くと線が細く、米盤だと刺激的で歪みっぽく聴こえるので、大方の印象が悪くなってもしかたがない。

イシュトヴァン・ケルテス指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 DECCA

 今回全曲聴き直してみたが、特段印象に残らない。

カール・ベーム指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 DG

 指揮者がオーケストラをコントロールしていない。オーケストラが勝手に奏いているだけ。響きに厚みがなく、ためにところどころ室内楽的とさえ聴こえる。おそらく、ベームの衰えが最も顕著であった時期の録音。

アルトゥーロ・トスカニーニ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 DOCUMENTS

 1952年、トスカニーニがフィルハーモニア管弦楽団に客演した際のlive録音。NBC交響楽団との録音よりも「熱い」が、これが好きかと言われると、否。

セルジュ・チェリビダッケ指揮 ミラノ・イタリア放送交響楽団 MOVIMENTO MUSICA

 1959年のlive録音。現在のように、シュトゥットガルト放送交響楽団やミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団のdiscが存在しなかった頃には、これも「幻の指揮者」チェリビダッケの貴重な記録だった。オーケストラが弱く、微温的と聴こえる。

フェリックス・ワインガルトナー指揮 ロンドン交響楽団、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 Artisco

 1938-1940年のSP録音。1、4番がロンドン交響楽団、2、3番がロンドン・フィルハーモニー管弦楽団。Artiscoの、SP盤からの板起こしで疑似stereo。疑似stereoが許せれば、音は意外と聴きやすい。感情移入を排したモダンな演奏。ベートーヴェンの交響曲全集ではいかにも物足りないが、ワインガルトナーとしては、こちらのブラームスはベートーヴェンよりも熱が入っている。


 LPで全集(全曲)録音を持っているものは以上。思ったよりいろいろ持っていた(笑)

 なお、2、3付け加えておくと、省略したのは―

フルトヴェングラー盤

 全集セットで出ていた例はあるが、どの演奏をもって全集とするのかという問題がある。たとえばCDでは、伊MEMORIESあたりがフルトヴェングラー、クレンペラー、カイルベルト、モントゥー、メンゲルベルクなどの、各地でのlive録音や、一部セッション録音も集めて、交響曲全集としている例があるが、こうした寄せ集めは組合せを変えればいくらでも編集可能。おそらく既出盤のcopyであろうとも思われ、そもそも録音を行ったレコード会社の企画による「全集」ではないため、そうしたものはここでは省略する。ただし、上記トスカニーニ、フィルハーモニア管弦楽団、チェリビダッケ、ミラノ・イタリア放送交響楽団のlive盤などは、収録された録音に一貫性が認められるので、記載した。

ルドルフ・ケンペ指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団盤

 第4番が出たのはCDになってからではなかったか。4番はロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団のレコードがあったが、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団との1~3番とバラ4枚で「全集」とは言えないし、セット販売の実績はなさそうなので、ここには挙げていない。

ヨーゼフ・カイルベルト盤

 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、バンベルク交響楽団、ハンブルク・フィルハーモニー管弦楽団の3つのオーケストラを振って、全4曲をTelefunkenに録音しているが、1番はmono、2番以降がstereo録音で、全集の企画によるレコーディングではなく、LP時代に全集盤として発売された形跡はなさそうなので(CDではタワー・レコード企画で全集として発売されたことがある)、ここには挙げていない。

 
※ ただし、これは今回私が手持ちのブラームスの交響曲全集のリストを作るにあたっての原則であって、他人様が別な解釈をしても一向に差し支えありません、そのあたりはご自由にどんぞ。


(Hoffmann)