178 プッチーニ 歌劇「ボエーム」




 原作はアンリ・ミュルジュHenry Muergerの「放浪芸術家たちの生活」。レオンカヴァッロは、自分が台本を書くから作曲しないかとプッチーニに持ちかけたのですが、断られてしまい、仕方なく自分で作曲をはじめた。ところがプッチーニは気が変わったものか、台本作家イッリカと詩人ジャコーザの手になる台本でさっさと作曲して、トリノで1896年2月1日に初演。結果は大成功。レオンカヴァッロの方は遅れて1897年5月6日にヴェネツィアで初演するもぱっとせず。レオンカヴァッロはおおいに気分を害して、生涯プッチーニと口をきかなかったそうです。

 どうもレオンカヴァッロの方が原作に忠実なようですが、プッチーニの方は台本作家も詩人も一流、それに音楽も親しみやすく、ま、これは仕方がありませんNA。私、原作そのものを読んだことはありませんが、「原作に忠実」とされている映画を観たことがあります。たしかに、プッチーニのオペラの方が簡潔かつドラマティックで、愉しめるんですよ。


 それでは手持ちのdiscを―

チェーザレ・ソデロ指揮 メトロポリタン歌劇場管弦楽団 同合唱団
ムーア、グリア、ヤーゲル、ヴァレンティーノ、エンゲルマン、ピンツァ
1942.12.12 live
Walhall WHL5 (2CD)


 CDはこれしか持っていない。歌手が登場すると拍手、というメトロポリタン歌劇場ならではの聴衆の反応が愉しそう。liveならではの感興はなにものにも代え難い。合唱の乱れなんか許してしまう。映画女優としても有名なグレース・ムーアは1928年のデビュー時の役がこの「ボエーム」のミミ。


ジョルジュ・ツィピーヌ指揮 パリ・オペラ・コミーク管弦楽団 同合唱団
アンジェリシ、カステルリ、ガルデ、ルー、ヴィユーユ、デプラス
1956
仏Pathe DTX177 et 178 (2LP)


 フランス語版。舞台がパリだからというこじつけではなく、これがなかなかいい。ややこぢんまりとしているものの、たいへん上品で、よい意味でのメロドラマ。歌手は特筆することもないが、なんとなく哀愁が漂い、感情移入しやすい歌になっているように思える。指揮も情感豊かで表情は多彩。


トゥリオ・セラフィン指揮 ローマ聖チェチリア音楽院管弦楽団 同合唱団
テバルディ、ダンジェロ、ベルゴンツィ、バスティアニーニ、チェザーリ、シェピ
1959
米LONDON OSA1208 (2LP)


 大歌手が揃っていながら、スタイルの統一が図られたバランスのよさ。これはセラフィンの功績か。プッチーニらしさという点も含めて、総合点でトップクラス。

 ドナルド・キーンはカラスのライヴァルであるテバルディが、《椿姫》のヴィオレッタを歌ったあと、流行歌かなにかを鼻歌で歌いながら足取りも軽く陽気に舞台から引き揚げてきたという話を引いて、「いかなる役も実在のものだと信じ」ていた、つまり役になりきっていたマリア・カラスには及ばないといった発言をしていました。この話、私にはむしろテバルディ贔屓になる要因となりましたね。奇妙に聞こえるかもしれませんが、私はあまりにeccentricな演技とか歌唱というものは、好きになれないんですよ。全身全霊を込めているのがあからさまに分かってしまうというのは、それは「芸」として一流なんでしょうか。「なりきって」いるのが分かりすぎると、ちょっと滑稽になりかねない。個人的には、演じている人物が汗を見せない芸の方が上位にあると思うんですよ。たとえるならば、「源氏物語」はいいんですが、紫式部という女性は好きになれない。「枕草子」の清少納言の方が、女性としてははるかに魅力的と思えるということです。


シュテファン・ショルティス指揮 ミュンヘン放送管弦楽団 バイエルン放送合唱団
ポップ、ダニエルス、アライサ、ブレンデル、バウマン、ローテリンク
1985.1.27-2.4
独EMI(Electrola) 27 0279 3 (2LP)


 DMM盤。ドイツ語版。スケールは小さく、指揮はメリハリ調、加えて子音が角張ったドイツ語は、さすがにプッチーニの音楽に対して違和感があるものの、歌手は総じて巧み。ポップ、アライサ、ブレンデルはとくに印象的。


レナード・バーンスタイン指揮  ローマ聖チェチリア音楽院管弦楽団 同合唱団
ルーオウ、ダニエルス、ハドレー、ハンプソン、バステルード、プリシュカ
1987.5-6
独DG 423 601-1 (2LP)


 歌手は突出した人がなく、バランスは良好。その分、指揮者の存在感が迫る。響きは彫りが深く、スケールの大きい演奏。ベルカントのスタイルとは一線を画すものの、かなりドラマティック。歌手、指揮のいずれにも感情移入しやすい演奏。バーンスタインのオペラ録音のなかで、じつはこれが最高傑作では? セッション録音ながら、歌手の距離感など自然でstage感もある。


 そのほか、以前聴いたことがある(discを持っていた)もの―

ベレットーニの1938年録音(EMI)

 覚えていない。アルバネーゼとジーリを覚えていない自分の感性が疑わしく思われ、もう一度聴いてみたい。

ビーチャムの1956年録音(EMI)

 手放したのは国内盤。海外盤でいいものがあれば再度入手したい。

シッパースの1963年録音(EMI)

 フレーニのひとり舞台だったと記憶している。

カラヤンの1973年録音(DECCA)

 パヴァロッティが脳天気なロドルフォだなと思ったこと以外、覚えていない。

コリン・デイヴィスの1979年録音(PHILIPS)

 持っていたのは間違いないが、演奏がどうだったか、記憶にない。

カルロス・クライバー、スカラ座の1979年live(Recitative)

 私はコトルバスが嫌いなので。なんかね、この人はなにを歌っても「カマトト」ぶっているようにしか聴こえないんですよ。オペラ界の大竹○のぶ?(笑)

レヴァインの1979年録音(CFP)

 これもまったく覚えていない。

ガルデルリの1982年のlive映像(LDC)

 LDで観たが、これでコトルバスが嫌いになった。その他の歌手も特筆するほどではなく、指揮もノリが悪くて一本調子だった。


(Hoffmann)