078 10inch盤を聴く その6




 10inch盤、もう一回声楽のレコードを取りあげる予定だったのですが、どれもLPも含めて取り上げたい歌手だったので、予定を変更。たまたまシューマンの交響曲第4番とメンデルスゾーンの交響曲第4番の10inch盤がそれぞれ3枚出てきたので、ブルッフのヴァイオリン協奏曲も含めた3曲を3種類の盤で聴き比べてみます。古い演奏でいずれもmono盤である代わりに、演奏はどれも見事なものばかり。ただし、そのほとんどがLPやCDでも入手が容易なものと思われます。

1 シューマン 交響曲第4番


Robert Alexander Schumann

アンドレ・クリュイタンス指揮 フランス国立放送管弦楽団
パリ、シャンゼリゼ劇場、1950.2.27,28.
仏Columbia 33-FC-1001


 EQカーヴはColumbia。

 オーケストラはフランスのローカルな響きを残す時代でありながら、意外とaggrresiveな演奏を展開。やはりクリュイタンスはドイツ音楽も上手い。シューマンにしてはあまり厚手の響きにならない(なりすぎない)ところも、おそらく指揮者のコントロール故。明快系。


ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
ベルリン、イエス・キリスト教会、1953.5.14.
独DG LPE17170


 EQカーヴはRIAA。

 いまさら言うまでもない有名な録音。この盤で聴く限り、なかなか良質な録音で、1970年代の12inch(30cm)LPよりも音質はいい。勢いで聴かせる演奏ではなく、思索に沈むような表情。作品そのものに備わっている以上の内容を感じさせるところがフルトヴェングラーらしい。


グイド・カンテルリ指揮 フィルハーモニア管弦楽団
1955.8.
英HIS MASTAER'S VOICE BLP1044


 EQカーヴはおそらくColumbia。

 残された録音は必ずしもすべてが絶賛ものというわけではなく、その意味で若くして亡くなったのは残念。しかしこのシューマンは上出来の部類ではないか。直情的で単純といえば単純ながら、直球勝負のさわやかさ。クリュイタンス、フルトヴェングラーと聴いてきて、ここでまた異なった傾向の演奏が聴けたのが、うれしい。この3枚を聴いたら、これ以上、同曲のほかの演奏のレコードが必要なのかと疑問も。


2 メンデルスゾーン 交響曲第4番「イタリア」


Jakob Ludwig Felix Mendelssohn Bartholdy

ヨーゼフ・クリップス指揮 ロンドン交響楽団
1953.10.
独DECCA LW5258


 EQカーヴはRIAA。

 彫りの深い響きが印象的なのは、DECCA録音のためばかりではなく、クリップスの呼吸が深く、息の長い歌わせ方をしているから。この指揮者のimageといえば古き良きウィーンの香りであろうが、それだけではない、案外と野性味もあるときには、ある。


サー・トーマス・ビーチャム指揮 ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
1951-52?
英Columbia 33C1006


 EQカーヴはColumbia。

 こうした音楽の愉悦感はビーチャムの得意とするところかと思いきや、終楽章など、わずかにリズムが重いか。いつになく重厚にやった、とも聴こえる。


エドゥアルト・ヴァン・ベイヌム指揮 アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
アムステルダム、コンセルトヘボウ、1955.6.2-4.
英PHILIPS SBR6202


 EQカーヴはRIAA。

 さすがベイヌム。ことさらに個性を際立たせるようなことはしていないのに、最上級の演奏と思わせる。品位を保ちながら、staticにならず、存分に動的なリズムを刻む。作品の格が一段上がる。


3 ブルッフ ヴァイオリン協奏曲


Max Christian Friedrich Bruch

エリカ・モリーニ(ヴァイオリン)
フェレンツ・フリッチャイ指揮 ベルリン放送交響楽団
ベルリン、イエス・キリスト教会、1958.10.
独DG J73112 HI-FI


 以前、取り上げたことがあるレコード。レコード番号に"HI-FI"の文字が入っているだけあって、mono録音ながら音質はたいへん良好、EQカーヴはRIAAと思われる。

 モリーニのヴァイオリンはやや薄味というか、淡白。フリッチャイはいつになく端正。濃厚なロマンティシズムというよりは、スッキリ清楚系の演奏。


ナタン・ミルシテイン(ヴァイオリン)
ジョン・バルビローリ指揮 ニューヨーク・フィルハーモニック
1942?
米Columbia ML2003


 EQカーヴはColumbiaかな。

 マイクがオンで、いきなりヴァイオリンが眼前に聴こえてくる。ために、細かい表情付けまでよく分かる。ヴァイオリンも指揮も上等。ミルシテインは長生きしてstereo録音時代まで生きているが、レコードで聴く限り、mono時代の演奏の方がいい。


エゴン・モルヴィッツァー(ヴァイオリン)
フランツ・コンヴィチュニー指揮 ベルリン国立歌劇場管弦楽団
1960以前
東独ETERNA 720 107


 EQカーヴはRIAA。Johann Severin SvendsenのRomanze fuer Violine und Orchester opus26を併録。

 モルヴィッツァーは1927年チェコ生まれのヴァイオリニスト。1951年からベルリン・シュターツカペレのコンサートマスターを務め、1953年からベルリン国立歌劇場弦楽四重奏団を設立して室内楽でも活躍。この盤はおそらく唯一の協奏曲録音。この盤は1960年発売のoriginal盤なので、録音はそれ以前。

 演奏はロマンティックですばらしい。コンヴィチュニー指揮するオーケストラの音色の良さはいつものことながら、伴奏指揮も上手い。スヴェンセンの作品も魅力的。


(Hoffmann)