087 ビゼー 交響曲 ハ長調




 ビゼーの交響曲ハ長調はビゼー17歳の時の作品。冒頭、いきなりテーマが「踊り出す」。この「踊り出す」という表現はまさにぴったりで、1947年にはジョージ・バランシンがパリ・オペラ座のために1947年に「水晶宮」と題したバレエにしているんですよ。なので、バレエ音楽「三角帽子」「牝鹿」に続けて取り上げるのも、一応筋が通っているというわけです。

 ちなみに水晶宮"Crystal Palace"というのは、1851年にロンドンのハイド・パークで開かれた第1回万国博覧会の会場として建てられた建造物のこと。鉄骨とガラスで作られた巨大な建物で、万博終了後は一度解体されたものの、1854年にさらに大きなスケールで再建され、ウィンター・ガーデン、コンサート・ホール、植物園、博物館、美術館、催事場などが入居した複合施設となりましたが1909年に破産。1936年11月30日に火事で全焼しています。


 それでは交響曲ハ長調のdisc、録音年順ではありません―

ビゼー:組曲「ローマ」
ビゼー:交響曲 ハ長調
ルイ・フレモー指揮 バーミンガム市交響楽団
バーミンガム、22-23.4.1974.
英EMI ASD3039(LP)


 先に述べたとおり、交響曲はビゼー17歳の時の作品。中学生の時、このフレモーの国内盤が発売されてすぐに入手して以来の愛聴盤。

 これまた若書きである組曲「ローマ」もすばらしい。この作品は、もともと交響曲にするつもりであったという説もあり、ビゼーの存命中は演奏されていない。しかしグスタフ・マーラーがウィーン宮廷歌劇場の芸術監督時代に、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団を振って、この作品を何度か取り上げている。

 フレモーの演奏では、フランス的と感じられるオーケストラの音色が気品さえ感じさせる。録音も良好ながら、ある程度音量を出さないと彫りが浅く聴こえてしまう。


ビゼー:交響曲 ハ長調
ビゼー:組曲「子供の遊び」
ベルナルド・ハイティンク指揮 アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
アムステルダム、コンセルトヘボウ、1977.9.
蘭PHILIPS 9500 443(LP) 蘭プレス
英PHILIPS 9500 443(LP) 英プレス


 一流オーケストラによる立派すぎるくらいの演奏。重厚にならず、彫りの深い響き。音場感で聴かせる録音が抜群に良い。蘭プレスでも英プレスでも同様。ただしカートリッジやトーンアームの調整が不十分だと内周部で荒れやすい(荒れるとすぐに分かる)レコード。その意味ではプレーヤーまわりの調整のチェックに使える。


ビゼー:交響曲 ハ長調
ビゼー:序曲「祖国」
アンドレ・クリュイタンス指揮 フランス国立放送管弦楽団
パリ、シャンゼリゼ劇場、8-9.10.1953., 23.10.1953
仏Columbia FCX273(LP) 折返コート、ペラジャケ
仏Columbia FCX273(LP) 棒付厚手ボード


 録音年に関しては1955.9.15.という資料もある。詳細不明ながら、上記は現行のクリュイタンス65CDセットの表記に従った。

 意外とダイナミックながら、独特の香気を漂わせるクリュイタンスらしい好演。クリュイタンスはほかにも同曲の録音が残されているが、この正規録音で代表する。


ビゼー:交響曲 ハ長調
ビゼー:演奏会用序曲「祖国」
エルネスト・アンセルメ指揮 スイス・ロマンド管弦楽団
スイス、ジュネーヴ、ヴィクトリアホール、1954.10.
仏DECCA LXT5030(LP)


 アンセルメの初回録音。mono録音。EQカーヴはDECCAffrr。

 軽妙感。木管のひなびた響きがユニーク。アンセルメなら後のstereo録音よりもこちらの旧録音をとりたい。


ビゼー:交響曲 ハ長調
ビゼー:組曲「子供の遊び」
ビゼー:小組曲「美しきパースの娘」
エルネスト・アンセルメ指揮 スイス・ロマンド管弦楽団
1960.
英DECCA SDD231(LP)


 アンセルメのstereo再録音。"Ace of Diamond"シリーズ。EQカーヴはRIAAで問題ない。

 重厚。これはこれでおもしろいが、リズムが重い。


ビゼー:交響曲 ハ長調
ラロ:交響曲 ト短調
サー・トーマス・ビーチャム指揮 フランス国立放送管弦楽団
1959.
His Master's Voice(EMI) ALP1761 (mono)
His Master's Voice(EMI) ASD388 (stereo)
World Record Club SPE712 (stereo)


 His Master's Voice盤、ALP1761はmono盤、ASD388はstereo盤。stereo盤は高域側のレンジが広がった分、響きが明るくなる。EQカーヴはRIAA。World Records Club盤はわりあい安価なstereo盤。EQカーヴはRIAAだと思われるが、これはかなり高域寄りのバランス。NABでもいいくらい。His Master's Voice盤とWorld Records Club盤では同列に比較できないかも知れないが、こはどうしたってHMV盤で聴きたい。

 演奏は、オーケストラの故なのかどうか、メリハリ調で推進力がありながら暖かい響き。mono盤の実在感はいいが、ややリズムが重く聴こえる。この点はしばしばビーチャムの特徴(欠点)のように言われることもあるが、mono盤で聴いたときのimageによる面もありそうな気がする。


ハイドン:交響曲第104番「ロンドン」(20th January 1950)
メンデルスゾーン:交響曲第4番「イタリア」(20th January 1950)
ストラヴィンスキー:バレエ組曲「カルタ遊び」(21th February 1950)
ビゼー:交響曲第1番 ハ長調(9th November 1953)
セルジュ・チェリビダッケ指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
キングレコード SLF-5019/20 (2LP)


 Cetra原盤。伊Cetraからはもう2曲か3曲含めた3枚組で出ていたように記憶しているが、国内盤で出たのはこの4曲。放送用録音なので、monoながら音質は良好。

 重くならず、テンポやフレージングに関してもまったく違和感がない。フルトヴェングラー時代のベルリン・フィルハーモニー管弦楽団がこのような音を出していたのは興味深い。対応の幅が広いと同時に、若きチェリビダッケのコントロール故か。


 CDもひとつだけ挙げておくと―

ビゼー:交響曲 ハ長調
ビゼー:組曲「ローマ」
ビゼー:序曲「祖国」
ミシェル・プラッソン指揮 トゥールーズ・カピトール国立管弦楽団
トゥールーズ、19-21.V.1993
EMI 5 55057 2 (CD)


 プラッソンらしい洗練された演奏。お洒落でelegantなフランス音楽に予定調和してしまっていると言えばそれまでながら、これまでいろいろなdiscを聴いてきて、やはりこれだけ上質な演奏はそんなにあるものではないことに気付かされた。とくに組曲「ローマ」はフレモー盤以外でなかなかいい演奏がなかったので、この作品を上質な演奏で収録している点でも貴重なdisc。この指揮者の問題は、なにを振っても同じような印象の演奏になることか。

 ここに挙げなかった演奏は、LPではバーンスタイン指揮、ニューヨーク・フィルハーモニック盤、小澤征爾指揮、フランス国立管弦楽団盤。コシュラーにストコフスキー最晩年の録音。あと、既に手放してしまったのがミュンシュ、ガルデルリ。CDではジャン=クロード・カザドシュなど。


(Hoffmann)