035 「アンドロメダ・・・」 ”The Andromeda Strain” (1971年 米) ロバート・ワイズ





レンズの効果か、じっさいにこういう場所なのか、注意を「集中」させる構図です。

 ロバート・ワイズ監督の「アンドロメダ・・・」”The Andromeda Strain”(1971年 米)です。ロバート・ワイズ監督といえば「ウェストサイド物語」”West Side Story”(1961年 米)や「サウンド・オブ・ミュージック」”The Sound of Music”(1965年 米)が有名ですが、個人的にはあまり興味のない映画。いわんや以前UFOの話のときに話題になった「地球の静止する日」”The Day the Earth Stood Still”(1951年 米)などというご都合主義きわまりない、(自国の核兵器保有を正当化するための)国策映画においておや。このひとは私にとって、なによりもまず、Hoffmann君が取り上げた「たたり」”The Haunting”(1963年 米)と、この「アンドロメダ・・・」の監督さんなんですよ。

 あらすじをたどっておくと・・・

 ニューメキシコ州の小さな町に人工衛星が墜落。回収に向かった米陸軍調査隊は、辺り一面に住民の死体を発見する。さらに、その兵士たちからの無線連絡も途絶えたことから、陸軍本部は人工衛星になんらかの病原体が付着している可能性があるとして緊急体制を発令した。

 陸軍は科学者を招集する。政府の細菌研究プロジェクト「ワイルドファイア」計画の責任者であるジェレミー・ストーン博士、同計画の発足メンバーであるチャールズ・ダットン博士、細菌(微生物)研究の第一人者である女性科学者ルース・リーヴィット博士、そして外科手術の権威であるマーク・ホール博士の4人。

 ストーン博士とホール博士が人工衛星を回収するために町へ入る。住民は苦しむ間もなく死んだと思われ、しかも死体を調べると血液が凝固して砂状になっている。さらに、生後間もない赤ん坊と老人の2人だけが生きて発見される。

 生存者二人と人工衛星を回収した科学者たちは、ネバダ州の砂漠に建設された秘密研究施設へ到着。そこは表向きはこそ農業開発センターを装た、地下に隠された5階の研究施設。ここには細菌研究のための最先端設備が揃えられていた。



このアル中のオジさんも、なかなかいいキャラクタ-です。看護婦カレンに「残念、脚が見えないな」なんて台詞も(笑)

 ストーン博士とリーヴィット博士が人工衛星を調べたところ、緑色の付着物が見つかり、これは地球上には存在しない未知の生命体。これが有害な病原体であり、しかも空気感染するもの。一方、医療スタッフのカレンと共に二人の生存者を調べるホール博士は、この二人の共通点を見つければ病原体への対処法も見つかると考える。

 その頃、陸軍本部はストーン博士らの要請で、細菌感染の拡大を防ぐため全滅した町の核爆破を検討するが、大統領は及び腰。それを知ったストーン博士らは猛抗議するが、その直後に「アンドロメダ」と名付けられた病原体が自在に姿形や習性を変化させるばかりか、エネルギーを吸収して拡散することが判明。核爆破がむしろ逆効果になると判断した科学者たちは、ホワイトハウスにその旨連絡する。

 すると、ダットン博士の研究ラボでアンドロメダ病原体が漏れ出てしまう。施設内が「汚染」されたことにより、施設の自動爆破装置が起動してしまった・・・。



当たり前のようにやっていますが、これまた巧みな構図ですね。

 「感染パニック」もののはしりですね。原作はマイケル・クライトンのSF小説「アンドロメダ病原体」。storyは概ね原作どおりですが、若干の変更点もあります。


 
リチャード・フライシャー監督の「絞殺魔」”The Boston Strangler”(1968年 米)と同様の画面分割です。

 まずなんといっても印象的なのは、徹底したドキュメンタリー・タッチの構成です。画面分割、前半のテンポの良さもさることながら、「神は細部に宿る」と言わんばかりの、詳細を極める段取りを綿密に描いています。たとえば、国家的危機における具体的な軍事・政治的手続き―科学者をほとんど強制的に動員して、家族にも機密を保つところなど、なるほどこういうものなんだろうな、と思わせるものがあります。それに、最前線で闘う科学者たちの使命感や倫理観と、ホワイトハウスや陸軍本部の政治的な思惑のぶつかり合いなども盛り込まれ、さらに科学者同士でのそれぞれの立場の違いも浮かび上がってくるシーンもあり、単純に政府のやることを善としているわけではありません。しかも、そういったさまざまな要素が拡散することなく、緊迫感を高めているのも見事です。

 また、施設内で全身を「消毒・滅菌」する手続きや、緑色の付着物を発見するまでの場面も長いこと・・・じつは子供の頃、この映画をTVで観ていて、ここで飽きちゃって、観るのをやめてしまったんですよ(笑)ところがいま観ると、おもしろくて目が離せない。それもそのはず、なんでもカリフォルニア工科大学やNASAのジェット推進研究所が技術協力しているんだそうで、これだけ徹底しているからこそrealityが獲得できるのだなと感心させられます。


 

 
子供のときはここで眠くなっちゃいましたが・・・(笑) ちなみに右下の画像、室内だから広角レンズで撮っているため、寄ると樽形収差が生じてしまうわけです。

 ここまでリアリズムを追及してこそのドキュメンタリー映像、画面分割はともかくも、コンピューターグラフィックなどの映像技術は、当時としてはかなり先進的かつ実験的だったのではないでしょうか。しかもこれ、あくまでSF映画であって、娯楽作品なんですよ。そもそも原作が少々辛口で、映画としても観る側に媚びていないのが幸いしましたね。個人的には気に入らない作品もありますが(笑)この監督が無能であるわけがありません。



タイトルバックからしてこれ―「マトリックス」”The Matrix”(1999年 米)に先んずること28年!

 それに、先に述べた施設内で無菌状態を徹底するための滅菌処理にしても、単調にならず、むしろ緊張感を高める効果を担っています。おまけに、ちょっとしたユーモアを挟むところもニクい。storyのほとんどが、地下施設でのドラマなのに、飽きさせないのはさすがです。


 
主要な役柄で女性はこの二人のみ。左はルース・リーヴィット博士。原作では男性であったところ、ここでは女性に変えられていますが、これは大成功でしょう。不機嫌顔のオバサンもじつにいい味を出しています。真面目な顔で冗談を飛ばす場面も(笑) 右は、それまで検査のためにミルクを与えられなかった赤ん坊にようやくミルクを飲ませることができた看護婦カレンの笑顔。こういうシーンが活きています。

 キャストに関しては、私などはよく知らない人ばかりなのですが、性格俳優ぶりはそれぞれの役柄にふさわしく、とくに気難しくて終始不機嫌顔の女性科学者リーヴィット博士を演じたケイト・リードがいいですね。原作では男性であるところ、脚本で女性に変更されたのが大成功でしょう。はじめの方で、しかめっ面で赤い光を見て、「娼婦時代を思い出すわ」なんて冗談を飛ばすところなど、観ていてニヤリとしてしまいます・・・が、じつはこのシーン、重要な伏線なんですよね。こんなところも脚本の上手さです。

 施設が汚染されて核の自爆装置が作動してしまい、しかし核爆発が起これば病原体は全世界に広がってしまう、自爆装置を止めることはできるのか・・・というクライマックスでアクション映画ふうになってしまっているんですが、ここまでのドラマで登場人物がそれぞれ魅力的に描かれているため、唐突な印象はなくて自然です。


(Parsifal)



参考文献

「アンドロメダ病原体」 マイクル・クライトン 浅倉久志訳 ハヤカワ文庫