090 「ロボット・モンスター」 "Robot Monster" (1953年 米) フィル・タッカー 「ロボット・モンスター」"Robot Monster"(1953年 米)もまた伝説のZ級映画、カルト映画として有名、「プラン9・フロム・アウター・スペース」と並ぶ最低映画のひとつに数えられているものです。監督のフィル・タッカーは、エド・ウッドの助監督を務めていたという疑惑(?)も存在する人。 ところで、地球最後の生存者は何人が正解なんですか? あらすじは― 少年ジョニーとその家族はピクニックに来ていた。父親は有名な科学者。ジョニーは、妙な物音に気付き、近くの洞窟を調べると、そこには、潜水夫のヘルメットを被ったゴリラのような、不気味な怪物が潜んでいた。直後、雷鳴と共に現れる恐竜の群れ。ジョニーは洞窟の宇宙人と、(同じ姿の)司令官との通信で、人類が滅亡したことを知る。生き残ったのはジョニーの一家と父親の助手であるロイの8人。ジョニーの一家が生き残ったのは、父親が開発した抗生物質のおかげらしい。この抗生物質にはエイリアンの殺人光線に対する免疫効果があったのだ。 なぜかこの手の映画では宇宙人が洞窟に潜んでいることが多いんですね。でも、通信機器がほぼ外に置いてあって、潜んでいない(笑)それにしても、シャボン玉がロマンティックです。 宇宙人は名前をローマンといい、全人類の絶滅を命令されていた。しかし、ローマンはまだ生き残りがいることを司令官に指摘され、ジョニー一家に降参するよう脅迫するが拒否される。怒るローマン。しかしローマンは、たまたま会ったジョニーの姉アリスを見て心を奪われてしまう。そう、ローマンはアリスに恋をしたのだ! 焦った司令官は、ローマンもろとも残った人類の殺害を企てる。再び轟く雷鳴、恐竜の復活と、突如起こった地震の地割れに飲み込まれる恐竜たち。しかし、これはすべてジョニーの夢だった。ほっとしたジョニー・・・。 ロケットが飛ぶシーンなんか、ありません(笑) ・・・ああ、もうあらすじを語っているだけでばかばかしくなってきましたNA。ところが作っている側は大真面目、というのが「プラン9・フロム・アウタースペース」との共通点。制作・監督のフィル・タッカーはこのとき25歳。撮影期間は4日、総制作費は1万6千ドルというあまりの低予算であったため、セットなんか組めるわけもなく、すべてロケ。 この映画はゴリラの着ぐるみに潜水帽を被せただけのチープなモンスターであまりにも有名ですよね。まあ、ロジャー・コーマンも似たようなことをやっていますが、これは監督の知り合いの俳優ジョージ・バロウズが持っているゴリラ・スーツを借りてきたもの。それだけではロボットに見えないので、潜水マスクを被せて宇宙ロボットだと言い張ることにしたわけです(笑)一応中に入っているジョージ・バロウズの顔を見せないために覆面をさせたものの、これが薄くて顔が透けて見えるのは、瑕疵なのか、前が見えないと演技が出来ないためなのか・・・。 私が観たのはパプリック・ドメインによる低画質盤ですが、それでも透けているのが分かります(笑)ちなみに上のポスターではガイコツ顔にされています。 storyも破綻しています。殺人光線に免疫作用を持つ抗生剤って、ご都合主義といちいちツッコむのも恥ずかしいくらい。着ぐるみモンスターは目的達成間近というこの期に及んで、ジョニー君の美しき姉アリスに一目惚れ。なんと和平交渉を求めて来るという展開。どうしたらこんなstoryを思いつくものやら・・・だって、和平交渉もなにも、もう人類滅亡寸前なんですけど・・・。 片やアリスはというと、非常事態にもかかわらず、父の助手ロイとイチャイチャして、あげくの果てに結婚式を挙げることに。この脳天気なカップルにはモンスターが激怒するのも無理ないのでは・・・。ああ、今回は「・・・」ばっかりだ。ともあれ、脳天気カップルは、人類絶滅のいま、なんと新婚旅行に出かけたりするのですよ。で、ラストは夢オチ。 結婚式。ちなみに婚前交渉済みです(笑)このあたりになると、人類絶滅の危機にあるという状況での緊張感のなさは、もはや気になりません。 キャストは、一応ちゃんとした俳優・女優さんなんですよ。ジョニーの母親役のセレナ・ロイルは赤狩りで干されていた女優。父親役のジョン・マイロングは戦前のドイツ映画で活躍した後、ハリウッドへ渡ってきたけれど、エキストラ役ばかりだったという不運の人。アリス役のクラウディア・バレットも女優ですが、まったく芽が出ないでクビになっていたという、これはおそらくもともと才能がなかったんでしょう。演技も素人に毛が生えた程度・・・というか、毛も生えていない程度かもしれません。 もっともこの作品を見れば理由はわかります。なにしろ、登場人物たちの緊張感のなさといったら。洞窟に隠れていたジョニー君一家を除いて、すべての人類を死滅したという設定なんですけどね、世界最後の生き残りがこの連中? いやもうこの一家に未来を託すのもちょっと嫌(笑)演技に緊張感がないというより、そもそも役者にやる気がないでしょ。一応付け加えておくと、ロイ役のジョージ・ネイダーはこのとき無名でしたが、この翌年にゴールデン・グローブ賞の最優秀新人賞を受賞して人気スターとなっています。 ローマンのボス、というか上司役なんですが、同じ着ぐるみなので区別がつきませんか? 上の画像とよく見比べて下さい、口元のあたりに円いマスクが付いているのがローマン君です。ま、違いはそれだけということなんですが・・・。 ところがですね、この出来の悪さで有名な本作、制作費1万6千ドルに対して、興行収入は100万ドルを突破したんですよ。もちろん、ハリウッドの常識からすればたいして大きな数字ではありませんが、制作費からすれば大成功作。 プロットは、同年製作の20世紀フォックスのSF映画「惑星アドベンチャー スペース・モンスター襲来!」に酷似しています。どちらの映画も、少年が、宇宙人に捉えられた彼の家族を助けるために戦い、宇宙人が最終攻撃をする直前で目を醒すという夢オチ。 ユニークなのは、本作品が偏光フィルター方式の立体映画として撮影、上映されたことでしょう。撮影クルーは新開発の3-Dカメラの経験などまったくなかったにもかかわらず、多くの批評家から立体映画としては高品質であるとの評価を得ています。なんでも3-Dカメラのレンタル料として約4,500ドルが予算に上乗せされたんだとか。 一方で、特殊効果は、ほぼすべて既存映画からの流用でした。トカゲを使った恐竜同士の戦いは、1940年の「紀元前百万年」から、ストップモーション・アニメを使ったシーンは1951年の「燃える大陸」から、宇宙船のシーンは「火星超特急」から持ってきたもの。 なぜ人類を絶滅させた殺人光線の影響で恐竜が復活するのかわかりませんが、なかなかの迫力です。なぜなら、他人の映画からの流用だから。 特筆すべきは音楽で、これは無名時代のエルマー・バーンスタインが手掛けたもの。後年「大脱走」"The Great Escape"(1963年 米)や「十戒」"The Ten Commandments"(1956年 米)などの音楽を手掛け、1968年には「モダン・ミリー」"Thoroughly Modern Millie"でアカデミー作曲賞を受賞しているエルマー・バーンスタインですよ。当人がインタビューで語ったところによると、当時は赤狩りのグレーリストに名前が乗っいたため、マイナー映画会社からしかオファーがなかったそうで、このような作品も結構楽しみながら仕事をしたんだそうです。 (Hoffmann) 参考文献 とくにありません。 |