120 「金星人地球を征服」 "It Conquered the World" (1956年・米) ロジャー・コーマン 「金星人地球を征服」"It Conquered the World"(1956年・米)です。 「巨大カニ怪獣の襲撃」"Attack of the Crab Monster"(1957年 米)に続けて取り上げるのは、同じB級映画の帝王ロジャー・コーマン監督作品だから、というよりも、登場する金星人の造形がカルト的な人気を得て、巨大カニと並ぶSF映画界の名士だからです。しかも、いずれも「カニ」。この金星人は大伴昌司に「金星ガニ」と呼ばれて、我が国でも昔から有名な映画です。アメリカでは「キュウリの怪物」とか「アイスクリームコーン」などと呼ばれ、親しまれて(?)いるそうです。それにしても、アメリカの映画界も1950年代になると、金星からはこの金星ガニが攻め込んできて、火星からはデビルガールがやって来る(笑)いつの間にか地球は観光地化したようで、なんともにぎやかなもんです。さすがにこれは冷戦下におけるソ連の脅威をあらわしているものではなさそう。大戦も終結して10年、世界が平和になったということなのかもしれません。 これまたツッコミどころ満載で、通信装置はチャチだし、戦闘シーンはショボイ、たったひとりで(一匹で?)やって来て、町の人々を洗脳・・・って、ずいぶんローカルな行動で、これで地球を征服ってのも時間がかかりそうですなあ。銃で撃たれても死なないくせに、最後はバーナーで目を焼かれたらあっさり頓死(笑)しちゃう、おまけに隠れていた洞窟が「金星と環境が似てい」たって・・・(笑)でもそんなアラをあげつらっていると、なんだかこちらが大人気ないような気がしてくるほどの、徹底したB級ぶり。この低予算ぶりをコーマンのプロの仕事と見るか、単なる手抜きと見るかによって、評価は分かれるかもしれません。ちなみにイギリスでは劇場公開に際して、検閲側から金星人がガスバーナーで倒される描写は動物虐待ではないかという懸念が持ち出されたのですが、AIPは、金星からの侵略者は動物ではないと主張して、無事公開に至ったというエピソードも(笑)なんか、B級映画にふさわしい、B級議論ですな。アホらし。 storyもかなり破綻気味。アンダーソン博士は軍や同僚の科学者たちに警告を発するも相手にされず、その苦悩と葛藤の末ということなんでしょうが、だからといって金星人の言うことを疑うこともなく妄信しているのはどんなものでしょう。地球人を洗脳し、感情を持たないロボットのような存在にすることが人類の輝かしい未来を約束しているなどと信じる方が、よほどおかしいのでは? 友人のネルソン博士もねー、アンダーソンともども、お互い相手の話に耳を貸さないタイプ。するとどうなるか。こういう男たちを配偶者とした奥さん方がいちばん苦労することになるんです(笑)アンダーソンの奥さんは金星人を退治しに行って返り討ちに遭うし、ネルソンの奥さんは金星人に洗脳され、操られて、旦那にあっさり射殺されてしまう。ひどい。 だいいち、ふたりともあまり頭を使ってものを考えているとは思えず、お世辞にも頭脳明晰な博士タイプには見えないし、真剣に演じれば演じるほど滑稽になるばかり。これはシリアスなstory展開を低予算で早撮りしてしまったがための瑕疵ではないでしょうか。この脚本ならもっと入念に作り込まないと・・・いや、もしかしたら、単に金星人の造形とシリアスな筋立てがアンマッチなだけかも知れません。 その金星ガニの造形。どこがどうって、いまさらことばを費やす必要はありませんよね。当初はもっと背が低かったんですよ。コーマン自身のアイデアで、重力の大きな惑星の生物は背が低くなるだろうという「科学考証」に基づいて、平べったいクリーチャーだった。ところが、それを見た主演女優ガーランドが、「本当にこれが地球を征服しに来たの?」"That conquered the world ?”と言いながら蹴り倒した。それでコーマンはすぐに顔の上に三角錐のアタマを付け足して、とりあえずガーランドの身長よりも少し大きくした・・・という有名な話は、コーマン自身の回想。金星の重力が地球よりも小さいという事実を確かめたことはなかったんですね(笑)それはともかく、改良を加えた金星ガニ、それでもてんで怖くはありません。もっともこのデザイン以前と言いたいような造形がカルト的な人気を得たのですから、中途半端に立派であるよりもむしろよかった? ちなみにこの金星ガニは「百万の眼を持つ刺客」"The Beast With A Million Eyes"(1955年 米)でもモンスター製作を手がけたポール・ブレイズデルが担当し、また着ぐるみの内部にも自ら入りました。骨組みはベニヤ板で、ワイヤーで手(?)が動かせるようになっており、表面はフォームラテックス製で赤く塗装されていたということなんですが、モノクロだから色は分かりません。しかし、格安DVDでも画質がまんざら悪くないだけに、安っぽい質感は明らかです。 それが一匹だけ洞窟に隠れていて、軍の攻撃にヨチヨチと出てくる・・・ああ、なるほど、たしかに「虐待」されているように見えないこともないかも・・・(笑) (Hoffmann) 参考文献 とくにありません。 |