130 「血のバレンタイン」 "My Bloodly Valentain" (1981年 加) ジョージ・ミハルカ




 「血のバレンタイン」"My Bloodly Valentain"(1981年 加)は、1970年代から1980年代半ばにかけて数多制作された、典型的な「スラッシャー映画」のひとつです。ところが、舞台設定がなかなか特異で、これが田舎の炭鉱町。学校やキャンプ場、いわく付きの家とかモーテルなんてのはめずらしくもありませんが、地場産業に焦点を当てたところがユニーク。

 また、舞台を炭鉱にしたことで、殺人鬼の紛争はヘルメットにガスマスク、凶器もツルハシ。これまでの凶器といえばチェンソーとか大鎌とか鉈でしょ。それがツルハシで、炭鉱労働者の扮装だから違和感もない。おまけに田舎町だからだれもが顔見知り、しかしヘルメットにガスマスクをつければ正体を隠せるというのは設定の妙です。visual的にもなかなか不気味。



 そこにバレンタイン・デーという記念日を持ってきた点だけが、従来型のスラッシャー映画のシチュエーションと同様。この、バレンタイン・デーにまつわる話というのが、20年前の2月14日に起きた悲惨な事件。パーティを楽しみにして浮かれていた坑夫が安全確認を怠ったために坑内でガス爆発、5人が生き埋めに。6週間後に救出されたとき、生存者は仲間を食って生きていた男がひとり。彼は精神に異常をきたしていたため入院するも、1年後のバレンタインの夜、町に戻ってくると、事件のきっかけを作った仲間をツルハシで殺害。以来、この町ではバレンタインを祝うことを自粛していたところ、20年ぶりにバレンタインのパーティを開催することに。すると、キャンディーの箱に入った人間の心臓が送りつけられ、「バレンタインデーを祝うな」との警告が・・・。

 スラッシャー映画として「13日の金曜日」の亜流作品でることは言うまでもありませんが、ここでちょいと注意を喚起しておきたいのは、この映画では2月14日が土曜日という設定であること。ということは、13日はちゃんと金曜日となるんですNA(笑)その点は映画内でも強調されています。



 炭坑の坑内という「密室」もいいアイデアです。ほとんど迷路だし、天井も低くて閉塞感が強く、適度に暗い。おかげで、なかなかいい雰囲気を醸し出しています。

 被害者となる若者たちはやはり「13金」の亜流らしく、頭カラッポなおバカさんたちであることは「お約束」。ブチ殺されてもあまり同情しません。これはカナダ産ですが、このへんがgame感覚のアメリカン・ホラー映画の常道をなぞっているところ。なかでもとりわけ悪ふざけばかりする軽薄なおばかさんが、チェック柄のネルシャツを着ているのも、ホラー映画で「うらやましい行為」をすると、死亡フラグが立つのも、セオリーどおり。



 しかし、舞台設定、殺人鬼の扮装などはいいものの、そのあたりの設定がもう少し活かし切れていれば・・・なーんか、盛りあがらない。真犯人にしても伏線もないままラストで説明されるだけ、従って謎解きの要素はないに等しい。しかも、こいつが犯人だとすると、その犯行の一部は時間的にやや無理がありそうな気がするんですよね。

 はじめてDVDで観たとき、残酷描写はたいしたことはないなと思った・・・のは、封切り公開当時はノーカットだったんですが、その後出たvideoもDVDも残酷シーンは10か所ばかりカットされちゃっていたんですよね。じっさい、キャンディー箱の心臓なんてまるっきり作り物にしか見えないし、ボイルされた心臓も、これ、遠目には生焼けのピロシキ、アップになると鶏肉と見える。



 そうしたら、その後出ましたね、完全版が。Region1の米盤ですが、早速入手して観てみたところ、復元されたシーンはすべて「ここっ」と、わかっちゃいました。我ながら病気が重いなあ(笑)



 たとえば、彼氏がビールを取りに行って戻ってくると・・・というシーンですが、カット版では死体の様子を見せることなく間接的表現のみ・・・たぶんここもカットされているんだろうなあとは思っていましたが、完全版ではちゃんとアップで見せてくれます。きっと手間をかけて死体メイクしたであろうに、ちゃんと映してもらわなくては、殺された方も文字どおり浮かばれないってもんです。



 ただし、その女の子が襲われているこのシーン、画面右端に血だらけの死体が見えるんですが、これはだれの死体なのか? ここまでに登場していない被害者みたいで、これは完全版でも明らかになりませんでした。これもカット故の不整合なのかと予想していたんですが、詮索はもうよそう(ダジャレです)。



 ラストは片腕を切断した殺人鬼が廃坑奥へと消えてゆく・・・評判がよかったら続編を作ろうと思っていたんでしょうが、この後の狂気の哄笑、切な気なエンディングテーマの効果と相俟って、印象深いラストシーンとなっています。しかしついに続編は制作されず、その後かなり経ってから3D映画がリメイク、公開されましたね。そちらは観ていません。



 なんにせよカットなんてないほうがいい・・・ひょっとして、ノーカット版だったら残酷描写を観せるためだけの映画という印象になってしまうのかと心配していたんですが、全体としては雰囲気はまあまあ、適度に後味が悪い(笑)佳作の上、かな。

 ところで、海外ではバレンタインデーにパーティをやる習慣があるんでしょうか。知り合いの女性から聞いたんですが、我が国の高名な某英文学者に、バレンタインデーのチョコレートを贈ったら、丁寧な礼状が届いて、「バレンタインデーのお祝い、ありがとう」と書いてあったとか。この「お祝い」というのも、まんざらピントはずれの発言じゃなかったのか・・・。


(Hoffmann)



参考文献

 とくにありません。