049 スメタナ 連作交響詩「我が祖国」 連作交響詩「我が祖国」は、ベドルジフ・スメタナの代表作です。曲の構成は― 第1曲 ヴィシェフラド ヴルタヴァ川河畔にあるヴィシェフラド城の遺構。 第2曲 ヴルタヴァ プラハ市街を流れるヴルタヴァ川。これのドイツ語名がモルダウ川です。 第3曲 シャールカ 乙女戦争において、シャールカが的を罠に嵌る場面を描いた場面を描写。 第4曲 ボヘミアの森と草原から 夏の日の喜び、収穫を喜ぶ農民の踊り、祈りの情景、喜びの歌、チェコの国民的舞踊でもあるポルカ。 第5曲 ターボル 第6曲 ブラニーク この第5曲、第6曲は15世紀のフス戦争におけるフス派信徒たちの戦いを讃えたものです。ドイツのマルティン・ルターに先立つ、ボヘミアにおける宗教改革の先駆者ヤン・フス(1369-1415年)は、イングランドのジョン・ウィクリフに影響を受け、堕落した教会を烈しく非難して破門され、コンスタンツ公会議の決定で焚刑に処せられたひと。その死後、その教理を信奉する者たちが団結し、フス戦争を起こします。この戦いは18年にも及ぶものでしたが、最終的にフス派は敗北。しかし、これをきっかけにチェコ人は民族としての連帯を一層深めることとなりました。フス派の讃美歌の中で最も知られている「汝ら神の戦士」が第5曲、第6曲を通じて使われています。 ターボルとは南ボヘミア州の古い町で、フス派の重要な拠点。ブラニークは中央ボヘミア州にある山で、ここにはフス派の戦士たちが眠っており、また讃美歌に歌われる聖ヴァーツラフの率いる戦士が眠るという伝説もあるところ。伝説によれば、この戦士たちは国家が危機に直面した時、それを助けるために復活するとされています。 もうおわかりですね、宗教改革の話からの連想で、「我が祖国」を取り上げることにしたんですよ(笑) それでは、手持ちのレコードから・・・そんなにたくさんは持っていないので、全部紹介しちゃいましょう。 パーヴォ・ベルグルンド指揮 ドレスデン国立歌劇場管弦楽団 1979 英EMI SLS5151(2LP)、東独ETERNA 8 27 199-200(2LP) 最初にパーヴォ・ベルグルンド。 第4面にドヴォルザークのスラヴ狂詩曲第3番op.43とスケルツォ・カプリッチョーソop.66を収録(表示は上記のとおりだが収録順は逆)。 はじめ英EMI盤を入手して聴き始めたところ、わりあいクールな演奏だなと思っていたんですが、後半かなり熱が入ってきて、クールどころかかなりの感情移入ぶり。惜しいのは、EMIから出ているベルグルンドのレコードは音質の良いものが多いのに、このスメタナはさほどでもないこと。ただし、東独ETERNAは英EMI盤よりも若干良好。 カレル・アンチェル指揮 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 1963.1.7,10,13,14. Supraphon SV8100-1(2LP) カレル・アンチェルの正規録音。 青/銀三角ステレオで、旧チェコ・スロヴァキアでの国内仕様初期タイプ。西側の市場に出てきたということは、チェコ人または関係者が、引っ越しか諸事情で国内から持ち出したということか。EQカーヴはRIAAと思われるが、かなり高域上がりのバランスで、要補正。 やや客観的な指揮でよく整っていますが、即物的と言ってしまうと誤解を招きそう。ていねいな表情付けが音楽に深みを与えている例です。 ヴァーツラフ・ノイマン指揮 ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 1967 TELDEC KT11043/1-2(2LP) お次はヴァーツラフ・ノイマン、全部の録音を持っているわけではありませんが、手許にはいくつかあります。どれもノイマンらしい客観的でクールな演奏です。この最初のレコードはオーケストラの個性的な音色が味わいを添えていて、ノイマンにしてはユニークな仕上がり。録音も良好で聴き応えがあります。 ヴァーツラフ・ノイマン指揮 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 1972 Panton 8110 0121-2(2LP) チェコスロヴァキアテレビジョン所有の音源。これは取り立てて特筆すべき個性が感じられません。 ヴァーツラフ・ノイマン指揮 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 1975.2.18-21,3.25. Supraphon 1110 2021-22(2LP)、日本コロムビア OB-7281~2-S(2LP) ノイマンではこれがベストでしょうか。Supraphon盤はやや高域上がりのバランスですが、透明度は高く、後半に至ると次のlive盤よりも高揚感があります。 ヴァーツラフ・ノイマン指揮 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 1982.11.5. 日本コロムビア(DENON) OB-7389→90-ND 東京文化会館での「我が祖国」初演100周年記念コンサートのライヴ録音。liveでも客観的な指揮に変化はなく、ややルーチンワークと聴こえます。 ズデニェク・コシュラー指揮 スロヴァキア・フィルハーモニー管弦楽団 1977 日Victor VIC-5501~2(2LP) ズデニェク・コシュラーは我が国で最初に発売されたレコード、ドヴォルザークの交響曲第9番を聴いて以来、私の好きな指揮者です。ノイマンとはまた違った個性ですが、この人もやや客観的で悠揚迫らぬ演奏。端正で上品。味わい深さでは随一・・・なんですが、この国内盤もかなり高域上がりのバランスで、補正しないとキンキンします。 ラファエル・クーベリック指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1958 LONDON CSA2202(2LP) 米LONDONだが英プレス盤。 いよいよ大御所、ラファエル・クーベリック、私の好きな指揮者なんですが、どうもDECCA録音は冴えません。往年のウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の音色には違いないのでしょうけれど、ブラームスの交響曲同様、オンマイクに過ぎて、なんだかやかましい。バランスも高域上場気味でよくありません。クーベリックとウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の組み合わせならば、EMIのややオフ気味の録音で聴きたかったところです。 なお、クーベリックは1952年にシカゴ交響楽団と録音していますが、私はそのレコードは持っていません。 ラファエル・クーベリック指揮 ボストン交響楽団 1971 DG 2707 054(2LP) クーベリックのDG録音は総じて音がやや硬いのですがこれはさほどでもなく、そんなに高音質ではないものの、オーケストラはいい音色を聴かせてくれます。とくに後半、次第に高揚していく様は見事なもの。次のミュンヘン録音がなかったらこれをクーベリックのベストとしていたところでしょう。 ラファエル・クーベリック指揮 バイエルン放送交響楽団 1984 ORFEO S115 842H(2LP)、medici arts 2072388(1DVD) これぞクーベリックの「我が祖国」では最高峰。LP、CDとDVDが同一音源かは不明ですが、ここでは一応同じものとして扱います。 技術的には必ずしも超一流ではないのですが、それでもヨーロッパの名門オーケストラの音色はいいですね。ORFEOの録音はやや硬質ながら、弦にしっとり感があります。クーベリックの指揮はどんな音楽にも情感を込めて、liveになると野性味さえ感じさせるものです。それでいて音楽のフォルムが崩れるようなことがない、すぐれたバランス感覚。クーベリックの指揮を聴くと、優秀な音楽家というよりも、真の芸術家と思えます。 中央のホルンにご注目、カメラの絞り羽根が星形ではなくて、金平糖形ですね。 ラファエル・クーベリック指揮 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 1990 Supraphon SU4255-1(2LP)、日本コロムビア(DENON) COJO-9096→7(2LP) 祖国の民主化により帰国して、国民的音楽祭「プラハの春」のオープニングを飾った際のlive録音。 クーベリックらしい野性味のある演奏・・・と言いたいんですが、やはりチェコ・フィルハーモニー管弦楽団は超一流とは言い難く、記念碑的演奏の記録だというだけで珍重するほどのものでもありません。私がSupraphon盤とDENON盤の二種類を持っているのは、この演奏にこだわりがあるためではなく、単に間違えて購入しただけ(笑) 小林研一郎指揮 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 1997.6.10-12. CANYON Classics PCCL-00409(1CD) 熱狂的なファンの多い小林研一郎、CDで持っているのはこれ以降の3枚だけです。 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団はノイマンが指揮していたときよりも上質になっていますが、チェコにおける伝統的な演奏、つまりこれまでどおりの路線の延長線上にある演奏と聴こえます。 小林研一郎指揮 東京都交響楽団 2009.5.26. EXTON OVCL-00406(1SACD) サントリーホールでのlive録音。 指揮者の表現意欲は明らかで、いかにも「やりたいようにやった」という、熱い演奏です。このdiscがこの指揮者のベストではないでしょうか。 小林研一郎指揮 読売日本交響楽団 2013.4.22. EXTON OVCL-00503(1SACD) これもサントリーホールでのlive録音。 指揮者は「快心の出来」と言ったそうなんですが、上記東京都交響楽団との演奏よりも整っている分、熱気は後退しています。どことなく、「安全運転」と聴こえて、あえてこのdiscで聴く理由はありません。 ま、たまたまこの指揮者のCDを3種類持っていますが、どれかひとつ聴いていれば、ほかの録音まで聴く必要はないような気がします。私はどれかひとつ残して処分しちゃう予定です。 ************************* レコード(LP)を再生した装置について書いておきます。 今回はすべてstereo盤なので、カートリッジは、ortofon SPU GTEを基本に、一部新しめのレコードはMUTECH RM-KAGAYAKI 《耀》を使いました。スピーカーは今回、1970年代あたりを境に、古い録音をTANNOYのMonitor Gold10"入りCornettaで、新しい録音をSpendorのブックシェルフで聴きました。 また、今回は高域上がりのバランスのレコードが多かったものの、EQカーヴはすべてRIAAで問題ないと思われました。 (Hoffmann) |