135 ミュンシュ指揮 パリ音楽院管弦楽団のレコードから




 シャルル・ミュンシュがパリ音楽院管弦楽団を振ったレコードをいくつか取り上げます・・・と言うと、「パリ管弦楽団だろ」なんて思う人もいるかも知れませんが、1967年に改組されて首席指揮者として迎えられた時のレコードではなくて、1940~50年代にレコーディングしたもの。なので、正しくパリ音楽院管弦楽団。ミュンシュが1937年から1946年まで、第11代パリ音楽院の首席指揮者の座にあった時期の録音です。渡米してボストン交響楽団のシェフを務めたのは1949年から1962年まで。なお、パリ音楽院管弦楽団の後任はアンドレ・クリュイタンスでした。


Charles Munch、若い頃の写真を選びました。

ラヴェル:左手のためのピアノ協奏曲
サン=サーンス:ピアノ協奏曲4番
アルフレッド・コルトー(ピアノ)
シャルル・ミュンシュ指揮 パリ音楽院管弦楽団(ラヴェル)
パリ・フィルハーモニー協会管弦楽団(サン=サーンス)
Salle Chopin, Pleyel, Paris、1939.5.12(ラヴェル)
ロンドン・アビー・ロード第1スタジオ、1935.7.9(サン=サーンス)
仏La Voix de son Maitre COLH 98 (LP) mono


 SP音源。灰クロス厚紙棒付ジャケットの仏original盤。EQカーヴはRIAA。1980年頃に仏Pathe Referenceシリーズでも出ており、そちらの盤も持っているが、過剰なノイズ除去の悪影響で空気感のない音になっている。

 コルトーはこのラヴェルの左手のための協奏曲を両手で奏いており、ラヴェル存命中は発表を止められていた録音。そればかりか、ラヴェルは自身と親交のある指揮者全員に向けてコルトーと演奏しないように要請していたと言われています。この録音はラヴェル没後2年を経て実現したもの。もっとも、作曲を依頼して初演したパウル・ウィトゲンシュタインも、楽譜どおりに奏ききれず、ラヴェルに無断で手を加えて演奏したそうで、ラヴェルとの仲が険悪となったらしいんですけどね。楽譜どおり演奏された初めての演奏は1933年ジャック・フェヴリエによるパリでの演奏。この録音はその6年後で、ジャック・フェヴリエの録音は残されていないため、楽譜どおりに演奏されたはじめての録音ということになります。


オネゲル:オラトリオ「死の舞踏」
同:弦楽のための交響曲2番
J.L.バロー(ナレーター)、C.パンゼラ(バリトン)、O.トゥルバ・ラビエ(ソプラノ)、E.シェンヌベール(メゾソプラノ)
P.ベルナック(バリトン)、A.パスカル(ヴァイオリン)
シャルル・ミュンシュ指揮 パリ音楽院管弦楽団 イヴォンヌ・グーベルネ合唱団
パリ音楽院ホール、1941.3.27-28(「死の舞踏」)
パリ音楽院ホール、1942.10.15-16, 1944.3.1(交響曲)
仏La Voix de son Maitre FJLP 5026 (LP) mono
仏La Viix de son Maitre FALP 453 (LP) mono


 FJLP5026は折返表ツヤペラジャケットの仏original盤。FALP453は棒付ボードの再版。EQカーヴはColumbia。

 オラトリオ「死の舞踏」の作曲は1938年なのでひじょうに早い時期の録音ということになります。ナチス占領下での録音。時代を考慮に入れれば音質は良好。パンゼラ、ベルナックにジャン・ルイ・バローの語りがうれしいですね。ジャン・ルイ・バローはフランスの俳優、演出家、劇団主宰者。日本には、映画「天井桟敷の人々」のバチスト役でよく知られていますが、出演した映画は50本近い。

 なお、ナチス占領下でのオネゲル演奏については、こちらをご参考にどうぞ。


ベートーヴェン:交響曲8番
シャルル・ミュンシュ指揮 パリ音楽院管弦楽団
パリ、1947.10.2
英国DECCA LX 3053 (10inch LP) mono


 もとはSP録音。10inchの英original盤。EQカーヴはDECCAffrr。

 DECCA最初のベートーヴェン交響曲は、E.クライバーが3、5、6、7、9番の5曲を担当。1、2番をシューリヒト、4番をクリップス、そして8番のみミュンシュとベームの2人が録音しており、12inch盤でシューリヒトの1番とカップリングされたのはベームの方で(LXT2824)、こちらのミュンシュ盤は12inchで出ていないので、すっかり忘れられてしまい、あまり知られていないはず。これがミュンシュ最初のベートーヴェン交響曲録音。


チャイコフスキー:交響曲6番「悲愴」
シャルル・ミュンシュ指揮 パリ音楽院管弦楽団
パリ・サル・ド・ラ・ミュチュアリテ、1948.5.24, 27
仏DECCA ACL 20 (LP) mono


 これは仏での再発盤。緑/銀Ace of Clubs盤だが音質は良好。EQカーヴはRIAA。

 初出盤はLXT2544なんですが、見たことがありません。また、ボストン交響楽団との1962年3月12日のRCA録音も聴いたことがありません。LP化されたのは1951年なのでミュンシュがアメリカに渡った後のLP化。モダンな感覚でスタイリッシュな演奏。リズムが洗練されていて軽やか。クライマックスでの加速がこの指揮者らしいところ。


フランク:交響曲
同:交響的変奏曲
アイリーン・ジョイス(ピアノ)
シャルル・ミュンシュ指揮 パリ音楽院管弦楽団
1950年代半ば頃?
仏DECCA ACL 13 (LP) mono


 これも仏での再版。緑/銀Ace of Clubs盤。初出はLXT2692。EQカーヴはRIAA。

 弦のフレージングに夢見るようなatmosphereがあって、渡米後のミュンシュとはかなり異なります。木管は名人芸の域。アイリーン・ジョイスのピアノもいいですね。この人は録音が少なくて残念。


 レコード(LP)を再生した装置について書いておきます。
 今回はすべて古いmono盤なので、カートリッジは、ortofon CG 25 Dを基本に、一部SHELTERのmonoカートリッジを使いました。スピーカーはSiemensのCoaxial、いわゆる「鉄仮面」をチャンネルあたり2基の後面開放型Sachsen 202で聴いています。なお、私はmono盤でもスピーカーは2本で聴きます。部分的に、TANNOYのMonitor Gold10"入りCornettaでも聴いています。
 また、EQカーヴはRIAAで疑問を感じたものは適宜ほかのカーヴを試し、結果はなるべく記載しておきました。



(Hoffmann)