137 シューマンとブラームスのピアノ作品のレコードから




 もともとピアノ作品はあまり頻繁に聴く方ではなくて、ときどき引っ張り出すのはドビュッシー、ラヴェル、セヴラックなどのフランス勢ばかり、次いでバッハかな。ベートーヴェンからロマン派の作曲家のピアノ作品は滅多に聴きません。

 それでも、こうして語っているといろいろなことがきっかけになりますね。このところ、ブラームスとシューマンを取り上げたので、このふたりの作曲家のピアノ曲のレコードを聴いていました。

 そこで、私がとくに気に入っているものをいくつか。まずはシューマン―


シューマン:ピアノ協奏曲
同:子供の情景
 ギオマール・ノヴァエス(ピアノ)
 ハンス・スワロフスキー指揮 ウィーン・プロ・ムジカ交響楽団
 1955
仏Pathe-Vox PL8540 (LP)


 仏original盤。EQカーヴはNABか。Columbiaかもしれない。

 シューマンの「子供の情景」とくればクララ・ハスキルと行きたいところですが、ハスキルはモーツアルトの協奏曲で取り上げたばかりなので、ここはノヴァエスを。ギオマール・ノヴァエスGuiomar Novaesは1895年ブラジル生まれ。天才少女として名を馳せ、14歳でパリ留学、1912年に17歳でロンドン・デビュー。オーケストラの実体はウィーン交響楽団。協奏曲は同じくウィーン交響楽団でクレンペラーの指揮による旧録音があり、そちらはよりオーケストラが雄弁なんですが、いまは協奏曲ではなく「子供の情景」を取り上げたいので。おっとりとした雰囲気が気に入っています。

 なお、ノヴァエスもハスキルと同様、VeniasからCD14枚組のセットが出ているんですが(VN039)、既出盤のcopyであるためでしょう、めずらしいlive録音が入っている一方で、重要な録音がかなり抜けていますね。


Guiomar Novaes いい写真ですね。


"Yves Nat Schumann"
イヴ・ナット(ピアノ)
仏Pathe Marconi 2C153-10960/4 (5LP)


 収録曲は省略。ほとんどが1950年代のmono後期の録音。

 イヴ・ナットYves Natは1890年生まれのフランスのピアニスト。とりわけシューマンの全集は有名な録音ですが、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集もいいですよ。私はmono録音に抵抗がないので、シューマンのピアノ作品については、この5枚組のセットがあれば十分かなと思っています。monoとしてはなかなか良質な録音です。

 このほかにシューマンのピアノ作品のレコードでときどき聴くのは、ヴィルヘルム・ケンプ、カトリーヌ・コラール、ちょっと変わったところで高橋悠治といったところ。


Yves Nat


 お次はブラームス―


ブラームス:3つの間奏曲 op.117
同:6つの小品 op.118
同:4つの小品 op.119
 アルド・チッコリーニ(ピアノ)
 1968
仏Pathe Marconi 2C 063-10611

ブラームス:8つの小品 op.76
同:2つの狂詩曲 op.79
同:幻想曲集 op.116
 アルド・チッコリーニ(ピアノ)
 1968, 1969
仏Pathe Marconi 2C 063-10612


 仏original盤。いずれもCasper David Friedrichの"Kreidefelsen auf Ruegen"で、2枚バラのセットと見るべきかと思われる。仏盤では後に2枚組の廉価盤も出ている。

 チッコリーニはCD全集よりもはるか以前、1960年頃に仏VEGAにベートーヴェンのピアノ・ソナタ第8番「悲愴」、第21番「ワルトシュタイン」を録音しています(30MT10142、mono録音)。そちらは悠揚迫らぬテンポでじつにベートーヴェンらしい様式感のある演奏になっているんですが、どこか「よそ行き」感があるんですよ。しかしこのブラームスではなにも違和感がない。これはチッコリーニの数年間の進境というよりも、ブラームスがかなりこのピアニストの本質に近い音楽だからではないかと思います。


Casper David Friedrich "Kreidefelsen auf Ruegen"


ブラームス:3つの間奏曲 op.117
同:6つの小品 op.118
同:4つの小品 op.119
 ヴィルヘルム・ケンプ(ピアノ)
 1963
独DG 138903 SLPM (LP)

ブラームス:バラード集 op.10
シューマン:3つのロマンス op.28
同:アラベスク op.18
同:「森の情景」 op.82から「預言鳥」
同:「雑記帳」 op.99から「ノヴェレット」
 ヴィルヘルム・ケンプ(ピアノ)
 1972
独DG 2530 321 (LP)


 上記シューマンのレコードでは省略してしまったケンプ。どちらかというと、ブラームスの方が似合うと思います。とか言いながら、ブラームスのバラードとシューマン作品をカップリングしたレコードはいい企画ですね。さすがにケンプは最盛期を過ぎているものの、深い味わいがあります。

 ちなみにベートーヴェンのピアノ・ソナタは、CDではほかにもあるんですが、レコードに関しては、上記イーヴ・ナットとケンプの全集が双璧。シュナーベルとバックハウスは私は相性がよくないんですよ。


ブラームス:間奏曲 イ長調 作品76-6
同:間奏曲 イ短調 作品76-7
同:間奏曲 ホ長調 作品116-4
同:間奏曲 変ホ長調 作品117-1
同:間奏曲 変ロ短調 作品117-2
同:間奏曲 嬰ハ短調 作品117-3
同:間奏曲 イ短調 作品118-1
同:間奏曲 イ長調 作品118-2
同:間奏曲 変ホ短調 作品118-6
同:間奏曲 ロ短調 作品119-1
 グレン・グールド(ピアノ)
 1960
米Columbia MS6237 (LP)


ブラームス:バラード集 op.10
同:2つの狂詩曲 op.79
 グレン・グールド(ピアノ)
 1982
CBS IM37800 (LP)


 グールドのブラームスの、新旧録音。1982年の録音はグールドの遺作。グールドのレコードはセッション録音に関してはすべて聴きましたが、第一がバッハ、次いでこのブラームスですね。

 それにしても、ピアノ・ソナタのレコードは一枚も出て来ませんね。いや、何枚か持ってはいるんですが(笑)



 レコード(LP)を再生した装置について書いておきます。
 古いmono盤では、カートリッジは、ortofon CG 25 D、stereo盤は同じくortofonのMC20 MkIIを使いました。スピーカーはSiemensのCoaxial、いわゆる「鉄仮面」をチャンネルあたり2基の後面開放型Sachsen 202。なお、私はmono盤でもスピーカーは2本で聴きます。部分的に、TANNOYのMonitor Gold10"入りCornettaでも聴いています。
 また、EQカーヴはRIAAで疑問を感じたものは適宜ほかのカーヴを試し、結果はなるべく記載しておきました。



(Hoffmann)