176 ブラームスのヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲のdiscから 前説はありません。手持ちのdiscから― アルフレッド・コルトー指揮 バルセロナ・カザルス管弦楽団 ジャック・ティボー(ヴァイオリン) パブロ・カザルス(チェロ) 1929.5.10-11 独Electrola 1C053-03 034 (LP) 東芝 GR-2044 (LP) ティボーが1953年に事故死して、カザルスがプラド、さらにプエルトリコに亡命した後、コルトーはカザルス・トリオの録音のLP化に腐心。なかでもこの二重協奏曲については、Pathe社の社長にLP化再発を促す書簡を送っている。曰く「カザルスから見ても、私から見ても、我々トリオのレコードの中で最高傑作の一つ」「この案件に関する私の諦めの悪さをお許し願いたいが、これはカザルスの願望に沿うとともに、我々の大切なティボーからも歓迎されたに違いないものと確信する」と―。たしかに、いまあらためて聴くに値する、人類の文化遺産。音質も録音年代を考慮すれば驚異的といいたいほどに良質。 ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 ウィリー・ボスコフスキー(ヴァイオリン) エマヌエル・ブラベッツ(チェロ) 1952.1.27 live 東芝 EAC-60156 (LP) 伊Cetra FE-16 (LP) 二人のソリストは必ずしも評判がいいとは言えないレコードながら、オーケストラのメンバーとあって、さすがに音色、歌い回しともに揃っており、違和感がない。指揮は気迫も十分ながら、どちらかというと安定感。 ブルーノ・ワルター指揮 ニューヨーク・フィルハーモニック アイザック・スターン(ヴァイオリン) レナード・ローズ(チェロ) 1954 日CBS Sony SOCF129 (LP) これといって特筆するべきこともない。 ブルーノ・ワルター指揮 コロムビア交響楽団 ジノ・フランチェスカッティ(ヴァイオリン) ピエール・フルニエ(チェロ) 1959 米Columbia ML5493 (LP) stereo録音されているが、私が持っているのは6eyesのmono盤。かなりロマン主義的。 アルチェオ・ガリエラ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 ダヴィド・オイストラフ(ヴァイオリン) ピエール・フルニエ(チェロ) 1956 独Columbia SMC80900 (LP) 指揮はやや一本調子なれど、それだけにソリストがクローズアップされる。規範的な演奏。 サー・ジョン・バルビローリ指揮 ハレ管弦楽団 アルフレード・カンポーリ(ヴァイオリン) アンドレ・ナヴァラ(チェロ) 1959 英PRT GSGC2029 (LP) 暖かい人肌感覚。こうしてさまざまな演奏を続けて聴いていると印象に残りにくいが、愉しめる演奏。 フェレンツ・フリッチャイ指揮 ベルリン放送交響楽団 ヴォルフガング・シュナイダーハン(ヴァイオリン) ヤーノシュ・シュタルケル(チェロ) 1961 独DG 139 126 (LP) かなり気に入っているレコード。ブラームスらしいブラームス。ほの暗い響きのなかに、熱いパッション。 ジョージ・セル指揮 クリーヴランド管弦楽団 ダヴィド・オイストラフ(ヴァイオリン) ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ(チェロ) 1969 英EMI ASD3312 (LP) ロストロポーヴィチは目立ちたいのか、やや出しゃばり気味。オイストラフは我が道を行くといった態度で、大物ソリストを起用すればいいというものでもないという例。セルの指揮にはすぐれた風格。 ベルナルド・ハイティンク指揮 アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 ヘンリク・シェリング(ヴァイオリン) ヤーノシュ・シュタルケル(チェロ) 1970 蘭PHILIPS 6500 137 (LP) 仏PHILIPS 6500 137 (LP) 上記オイストラフ、ロストロポーヴィチの次に聴くと、ソリスト二人は共演するということの意味が分かっているという印象が強い。ハイティンクはサポートに徹している。 レナード・バーンスタイン指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 ギドン・クレーメル(ヴァイオリン) ミッシャ・マイスキー(チェロ) 1982 独DG 410 031-1 (LP) クレーメルとマイスキーが解釈で対立したと言われる録音。個人的には知性派のクーメルに肩入れしたい。バーンスタインは持って回ったようなモノモノしさ。数年後のひたすら遅いテンポが有無を言わせぬ説得力を持つようになるより前の段階。思い入れたっぷりの感情移入による表現が未だ身に付いていない時期なのか、あるいはブラームスにはもうひとつふさわしくなかったということなのか。 パーヴォ・ベルグルンド指揮 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 イェフディ・メニューイン(ヴァイオリン) ポール・トルトゥリエ(チェロ) 1984 独EMI 27 02681 (LP) DMM盤。現代的な整った演奏ながら、ソリスト二人がやや旧世代タイプと感じられる、指揮者とソリストの間にわずかな温度差があり、そのコントラストが決してマイナスではなく、ユニーク。 これよりCD― ユージン・オーマンディ指揮 フィラデルフィア管弦楽団 ヤッシャ・ハイフェッツ(ヴァイオリン) エマヌエル・フォイアマン(チェロ) 1939.12.21 Biddulph LAB041 (CD) このCDは「167 BiddulphのCDから その2」でも取り上げた。ハイフェッツは1930年代が絶頂期。そのハイフェッツとフォイアマンの息はぴったり。思えばこのふたりとオーマンディも含めて3人、ほぼ同世代。最年長オーマンディがこの録音時40歳、ハイフェッツ38歳、フォイアマン37歳。フォイアマンは1942年に39歳で亡くなっているので貴重な録音。 ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮 ルツェルン音楽祭管弦楽団 ヴォルフガング・シュナイダーハン(ヴァイオリン) エンリコ・マイナルディ(チェロ) 1949.8.24 live Music & Arts CD-1018 (4CD) "Wilhelm Furtwaengler at the Lucerne Festival / 1947-1953 Recordings & Broadcasts"と題された4枚組CDセット。フルトヴェングラーのもうひとつの二重協奏曲。ソリストの熱気はこちらの方が圧倒的。フルトヴェングラーらしさもより徹底している。 ハンス・クナッパーツブッシュ指揮 ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団 フリッツ・ゾンライトナー(ヴァイオリン) フリッツ・キスカルト(チェロ) 1959.1.6 live Hans Knappertsbusch Gesellschaft HK3005 (CD) コングレスザールでのlive。上記CDにはソリスト名の記載がないが、別盤によると以上のとおり。いずれもミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団の首席奏者。フルトヴェングラーの「勢い」とは異なり、悠揚迫らぬ風格、貫禄。ブラームスより以上に後期ロマン主義音楽と聴こえる。所有しているCDで聴く限り、録音はやや不安定。 サー・ジョン・プリッチャード指揮 BBC交響楽団 ヤン・パスカル・トルトゥリエ(ヴァイオリン) ポール・トルトゥリエ(チェロ) 1974.4.17 live BBC Music BBCL-4236-2 (CD) ヴァイオリンとチェロのソロは親子共演。禁欲的といいたいほどきりきりと引き締まった音は、ヴァイオリン、チェロに共通するもの。指揮は強烈な自己主張を感じさせるものではなく中庸ながら、アンサンブルは見通しがよく、ここでは意外と「熱い」演奏を繰り広げている。 リッカルド・ムーティ指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 ライナー・キュッヒル(ヴァイオリン) ロベルト・シャイヴァイン(チェロ) NHKホール、1975.4.3 live Altus ALTSA255 (SACD) ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の来日公演のlive。カール・ベームに同行して、若きムーティはこれが初来日だったはず。栴檀は双葉より芳し。すばらしい。ソリストがオーケストラのメンバーであることがこの作品の演奏ではメリットになり得ると、確信できる。結局これがいちばんいいかもしれない。 ミヒャエル・ギーレン指揮 南西ドイツ放送交響楽団 マーク・キャプラン(ヴァイオリン) ダーヴィト・ゲリンガス(チェロ) 1989.5.3 Intercord INT860.903 (CD) これも現代感覚の好演。どちらかと言えば客観的でクールではあるが、冷たくならないのが特徴。作曲家目線と指揮者(演奏家)目線のいずれに傾くこともなく、知情意のバランス。ソロの二人は絶妙の味わい。 (Hoffmann) |