118 「太陽の怪物」 "The Hideous Sun Demon" (1959年 米) ロバート・クラーク




 新奇な趣向とトンデモな表題(邦題)で名高い大蔵貢の新東宝が1962年に公開した「沖縄怪談 逆吊り幽霊」、「支那怪談 死棺破り」、「米国怪談 太陽の怪物」。前回お話ししたとおり、当時のポスターを見るといかにも3本立ての扱いと見えるんですが、じつは「沖縄怪談 逆吊り幽霊」と「支那怪談 死棺破り」は一本の作品なので、「沖縄怪談 逆吊り幽霊・支那怪談 死棺破り」と表記するのが正しい。「支那怪談」は「沖縄怪談」のなかで語られる劇中劇。で、「米国怪談」はというと、これはハリウッドから権利を買い取った“The Hideous Sun Demon”という、1959年の米映画。今回はこの米国怪談、「太陽の怪物」"The Hideous Sun Demon"(1959年 米)を取り上げます。

 B級映画としては有名なので、あらためてstoryを説明するまでもないかな。放射能事故にあった科学者が、以来日光を浴びると身体が退化して怪物になってしまうというお話。おとなしくしてりゃいいものを、酒場に行って、おまけにそこの女にチョッカイ出して、女の間夫(古いな・笑)に袋だたきにあった末、怪物に変身して相手を殺してしまいます。



 はじめのうちは「チラ見せ」で引っ張るのがほほえましい常套手段。



 「狼男」とか「ジキル博士とハイド氏」のvariationで、そこに当時流行りの放射能(被爆)を取り入れた、SFタッチのモンスター映画ですね。人間が退化するというモチーフで掘り下げてゆくこともできそうですが、この映画にはそこまでの深みはありません。ただ、トカゲめいた怪物になるだけ。



 よく、科学の犠牲となった科学者の悲劇、みたいに紹介される映画なんですが、ナーニ、酒とオンナにだらしない科学者の自業自得の物語です、これ。「なんでよりによってこのボクがこんな目にあうんだあ!」なんてヒス起こしていますが、そもそもの事故が、二日酔いで実験に失敗、被爆してしまったという、科学者としてあるまじき失態なんですよ。



 ラストは石油タンク(ガスタンクかな?)のてっぺんで警官に撃たれて落下。石油タンクにしろガスタンクにしろ、こんなところで銃撃戦をして大丈夫なのか・・・などと思う間もなく、駆けつけた放射線医学の権威である博士は「我々は彼の教訓を活かそう」と言ってオシマイ。教訓って、「二日酔いで放射能を扱う実験などしないように」「病気になったら酒と女はつつしんで、お医者様の言いつけを守っておとなしくしていなさい」ってことですかね(笑)

 ツッコミどころは満載で、放射線医学の権威である博士の診察は胸に聴診器をあてるだけで、「直るよ」とテキトーなひと言、凶悪犯逃走中ということでLA全域に非常線を張っているにしては、最後に追いかけている警察官はひとりだけ・・・と、B級テイスト芬々なところが、これは皮肉ではなく、おもしろい。さすが大蔵貢が目を付けるだけのことはある?(笑)

 監督のロバート・クラークはもともと俳優で、これより以前の1957年に「女宇宙怪人OX」"The Astounding She-Monster"(1958年 米)という映画に主演した際、ロクでもない出来にもかかわらず、興行的にはそこそこ成功していい収入になったので、今度は主演だけでなく制作も自分でやってみようと考えたんだそうで(笑)予算は約5万ドルで、映画のスタッフは、クラークの家族や友人たち。低予算ですから、自ら怪物のスーツアクターも務めており、これが暑くてたまらなかったそうです。文字どおり、太陽に苦しめられたんだねえ(笑)

 ちなみにこの映画、アメリカではロジャー・コーマンの「巨大カニ怪獣の襲撃」"Attack of the Crab Monster"(1957年 米)と二本立てで公開されています。B級二本立てで、これはこれで筋が通っていますね。


(おまけ)

 参考までに、上記「女宇宙怪人OX」"The Astounding She-Monster"(1957年 米)について簡単に説明しておくと、正味60分ほどのモノクロ映画。storyは―富豪令嬢を誘拐したギャングが逃げ込んだ山荘では若い地質学者が研究を行っていた。そこに、核戦争により滅亡寸前の惑星からやってきた謎の女性型エイリアンが現れ、彼女に触れた生物は一瞬にして死んでしまう。おかげでギャングは全滅。地質学者は令嬢を連れて逃げようと、追いかけてくるエイリアンに酸を浴びせて倒す。しかし、この女性型エイリアンは地球人とコンタクトをとろうとしていた友好的な宇宙人だった・・・という(脱力)モノです。

 監督のロニー・アシュクロフトは「あの」エド・ウッドの助監督だった人。予算は18,000ドルで、4日間で撮ったという省エネぶり。ちなみに女性型エイリアン役の女優、シャーリー・キルパトリックはもとストリッパーで、ここでは身体に張り付くばかりのぴちぴちコスチューム。撮影中、しゃがむこともできず、ちょっと動いたら背中側が裂けてしまったんだとか。後に見事なまでに肥満して、シャーリー・ストーラーの芸名で「デブ女優」として活躍しています。



 こちらは「巨大カニ怪獣の襲撃」"Attack of the Crab Monster"(1957年 米)。B級映画、低予算・省エネ映画の帝王(ケナしているんじゃありませんよ)ロジャー・コーマン監督による、62分のモノクロ映画。孤島の磯ガニが、核実験の放射能により巨大化し、テレパシー能力を持つカニ怪獣となって調査隊員を襲う・・・という話。モンスターの造形がマニアックな人気を呼んだため、B級クラシック・モンスター映画として語り継がれることになりました。これは次回取り上げましょう。



 さて、この2本に加えて本日取り上げた「太陽の怪物」と、いずれも核とか放射能はモチーフとして採用されていることにご注目を。1950年代後半にはこのような映画が多いんですよ。その作用は巨大化だったり、逆に縮小させたり、太古の生物を目覚めさせたり・・・。縮小させるのは「縮みゆく人間」"The Incredible Shrinking Man"(1957年 米)ジャック・アーノルド、太古の生物を甦らせるものはたくさんありますが、たとえば「ゴジラ」"Godzilla"(1954年 東宝)本多猪四郎。

 穿った見方かも知れませんが、どうも放射能というものの本当の危険性とか恐ろしさから目をそらされているような気もします。いや、「ゴジラ」なんかはまだしもなんですが、第2作以降、ゴジラもアイドル化してしまいましたからね。


(Hoffmann)



参考文献

 とくにありません。