165 石川静のリサイタルとレコード




 石川静は1954年生まれ。4歳から鈴木慎一のヴァイオリンの手ほどきを受けて、1966年プラハの国際ラジオ・コンクールで1位。1970年にプラハ音楽アカデミーに留学。1972年にヴィニアフスキー国際コンクールで2位。1973年にチェコ・フィルハーモニー管弦楽団と共演して大成功を収めて以来、ヨーロッパ各地で活躍しています。長らくプラハに居住していたようですが、ウィーン、ミュンヘンなどに移ったりもしていたようですね。

 レコードで聴く限り、演奏はわずかに叙情に傾くようですが、感傷とは無縁。厳格な構築性を犠牲にすることはありません。なにより 飾り気がなくて、「虚飾を排し」ということばがぴったり、どちらかというとやや線が細くて淡泊な印象もあるんですが、むしろそれが清潔・清楚といった印象につながっています。妙なたとえになりますが、その時々の気分で左右されない、当たり前のこととして上質な演奏を聴かせてくれる安定感には、ちょっと飄々とした芸術家、といったimageがありますね。こういう人の演奏はいちばん信頼できるんですよ。


石川静

 私は石川静のリサイタルを、いずれももうかなり以前のことですが、2回聴いています―

石川静ヴァイオリンリサイタル
1979年11月5日(月)東京文化会館小ホール
ルクレール:ヴァイオリン・ソナタ ニ長調作品2の3
フォーレ:ヴァイオリン・ソナタ第1番 イ長調作品13
グリーグ:ヴァイオリン・ソナタ第3番 ハ短調作品45
ショスタコーヴィッチ:9つのプレリュード
 ヨセフ・ハーラ(ピアノ)


石川静+ヨセフ・ハーラ 二重奏の夕べ
1984年11月12日(月)新宿文化センター
モーツアルト:ヴァイオリン・ソナタ ト長調K.301
シューベルト:ヴァイオリンとピアノのためのソナチネ第3番 ト短調D.408
ドヴォルジャーク:4つのロマンティックな小品 作品75
パガニーニ(シマノフスキ編曲):カプリス
モシュコフスキ:ギター
ドビュッシー:ヴァイオリン・ソナタ
 ヨセフ・ハーラ(ピアノ)


 いまでも、よく覚えていますよ。とくに1979年の方はその後NHK-FMで放送され、当時エアチェックしたtapeはいまでも持っており、今回も聴きました。

 演奏は上記のとおり。とくに印象深かかったのはフォーレなんですが、これは私がこの音楽が好きだから・・・ばかりではなく、このとき私の隣に小学生ぐらいの娘さんとそのお父さんが座っておりましてね、ルクレールが終わった後、お父さんが娘さんに「次はお父さんの大好きな曲だよ」と言って、「ウン」と頷いた女の子。そのときの、なんだか嬉しいような気分が忘れられないから―。

 1984年のシューベルトも忘れがたい演奏でしたね。ドビュッシーも、やっぱりこれは私の好きな作品ですのでね。とりわけフォーレとシューベルトの録音がないのは、まことに残念です。


 石川静のレコードは市販されたものはすべて入手しています。これまでに、シベリウスとブルッフの協奏曲をカップリングしたレコードは取り上げたことがありますね。とりあえず、手持ちのものを。概ね録音順のはず―

プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲第1番
シマノフスキ:ヴァイオリン協奏曲第1番
ヤン・クレンツ指揮 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
1973.1.8, 1973.3.4-5
SUPRAPHON 110 1639 (LP)
日本コロムビア OQ-7381-S (LP)


 たしかこれがレコード・デビュー盤。


パガニーニ:ヴァイオリン協奏曲第1番
スラヴィーク:ヴァイオリン協奏曲第2番 アレグロ・モデラート
ズデニェク・コシュラー指揮 プラハ室内管弦楽団
1975頃
SUPRAPHON 1 10 2076 (LP)
日本コロムビア OQ-7382-S (LP)


 スラヴィークの作品は、"The pisno part reconstructed by Frantisek Ondricek, Orchestrated by Pavel Dedecek"との表示あり。


チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲
同:憂鬱なセレナード
ズデニェク・コシュラー指揮 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
1978
SUPRAPHON 1110 2406 (LP)
日本コロムビア OX-1105-S (LP)


 チャイコフスキーは「奏きまくる」演奏の人が多いんですが、このような、強烈な自己主張よりも作品に語らせるような演奏は貴重です。コシュラー、チェコ・フィルハーモニー管弦楽団のバックもこのソロにふさわしい自然体。


バルトーク:ヴァイオリン協奏曲第2番
ズデニェク・コシュラー指揮 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
1980 live
SUPRAPHON 1110 3385 ZA (LP)
日本コロムビア OX-1206-S (LP)


 これもわりあい取り出す機会の多いレコード。


シベリウス:ヴァイオリン協奏曲
ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番
イルジー・ビエロフラーヴェク指揮 ブルノ国立フィルハーモニー管弦楽団
1978.6.22-23
SUPRAPHON 110 2289 (LP)


 これは以前、「152 シベリウスのヴァイオリン協奏曲のdiscから」で取り上げています。


「石川静/ヴァイオリン・リサイタル」
パガニーニ:ラ・カンパネルラ
ヴィエニアフスキ:華麗なるポロネーズ
ラフマニノフ:ヴォカリーズ
バルトーク:ルーマニア民俗舞曲
クライスラー:序奏とアレグロ
ヴィニアフスキ:伝説曲
ノヴァチェク:常動曲
ロッシーニ/カステルヌオーヴォ=テデスコ編曲:フィガロ〈セビリャの理髪師〉より
ヨセフ・ハーラ(ピアノ)
1980.6.14-16
SUPRAPHON 1111 3196 G (LP)
日本コロムビア OX-7223-ND (LP)


モーツアルト:ヴァイオリン・ソナタ第25番KV301、第32番KV376、第40番KV454
ヨセフ・ハーラ(ピアノ)
1980
SUPRAPHON 10 3158-1 G (LP)
日本コロムビア OX-1204-S (LP)


モーツアルト:ヴァイオリン協奏曲第3番、第5番「トルコ風」
リボル・ペシェク指揮 ドヴォルザーク室内管弦楽団
1980.4.26-27
SUPRAPHON 1110 3177H (LP)
日本コロムビア OX-1304-S (LP)


 これも発売時に国内盤を入手して以来の愛聴盤。清楚で作為のない自然体。当時は、モーツアルトのヴァイオリン協奏曲なら、ミシェル・オークレールの4、5番(PHILIPS)とこれがあれば、ほかのレコードはいらないと思っていました。

 SUPRAPHON盤はどれも高域上がりのバランスで、響きもやや厚み不足。バランスは日本コロムビアから出た国内盤のほうが良好です。SUPRAPHON盤の場合、カートリッジはあまり高域端に輝きのないものを使いたいですね。我が家にあるものではSHELTERの501 Classicかな。


ミスリヴェチェク:ヴァイオリン協奏曲集
リボル・ペシェク指揮 ドヴォルザーク室内管弦楽団
1983.8.8-10
SUPRAPHON 1110 4031-32 (2LP)


ミスリヴェチェク:ヴァイオリン協奏曲集 vol.2
石川静(ヴァイオリン)
リボル・ペシェク指揮 ドヴォルザーク室内管弦楽団
1986.3.1-8
SUPRAPHON 11 0049-1 (2LP)


 これは国内盤LPは出ておらず、CD3枚バラで発売されていましたね。LPはいずれも2枚組で4曲ずつ収録。CD3枚は、2曲、2曲、4曲の収録でした。SUPRAPHON盤の常で、やや高域上がりのバランスですが、補正すればCDよりもはるかに音質良好です。

 ヨーゼフ・ミスリヴェチェクはモーツアルトと同時代で、親交もあった、主にイタリアで活躍した作曲家で、作風はタルティーニの影響が指摘されます。ときどき任意の曲を取り出して聴いて愉しんでいます。




(Hoffmann)