170 ブラームスのピアノ協奏曲のdiscから 誰でしたかね、むかーし、「ブラームスは交響曲を9曲書いた」という発言を読んだ記憶があります。それは交響曲4曲に二重協奏曲、ヴァイオリン協奏曲、ピアノ協奏曲2曲にハイドン変奏曲を加えて9曲。もちろん、厳密な意味で受け取り、検討するようなことでもありませんが、なるほどなあと思ったのは、4曲の協奏曲が、どれも管弦楽の比重が大きいこと。 「なにを言ってるんだ」と思われるかもしれませんが、私も、二重協奏曲やピアノ協奏曲などは、ピアニストがどうかということよりも、バックのオーケストラの演奏が充実しているかどうかで、discの良し悪しを判断しているようなところがあります。その証拠に、少なからず入手して聴いているブラームスのピアノ協奏曲のdiscは、必ずしも好きではないピアニストによる演奏のものが多いんですね。だから、そのピアニストのdiscは、そのブラームスの協奏曲しか持っていなかったりする。その人が録音しているんだから仕方がない。また、好きなピアニストがあまり録音していない、ということもあります。そして、伴奏、すなわち指揮者とオーケストラに関心があるdiscが多いんですよ。 まずは、1番、2番とも、私の特別好きなレコードはといえば― ブラームス:ピアノ協奏曲第1番 アレクシス・ワイセンベルク(ピアノ) カルロ・マリア・ジュリーニ指揮 ロンドン交響楽団 1972.11 英EMI ASD23992 (LP) 仏Pathe Marconi 2C069-12598 (LP) ブラームス:ピアノ協奏曲第1番 アレクシス・ワイセンベルク(ピアノ) リッカルド・ムーティ指揮 フィラデルフィア管弦楽団 1983 独EMI ASD14-3521-1 (LP) ブラームス:ピアノ協奏曲第1番 ソロモン(ピアノ) ラファエル・クーベリック指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1952 mono 英His Master's Voice ALP1172 (LP) 仏La Voix de son Maitre FALP361 (LP) ワイセンベルクなんてたいしてレコード持っていないんですけどね。この2枚は格別にいい。ジュリーニの気迫はたいへんなもので、どう聴いても、その気迫に引っ張られている。ムーティも熱演型なんですが、引き締まった厳しさが勝っていて、やはりワイセンベルクはその緊張感に引っ張られている。どうもワイセンベルクという人は、協奏曲では指揮者次第のようなところがあるんじゃないでしょうか。 ソロモン・カットナーは「奏きまくる」タイプではなく、どちらかといえば「抑制気味」ながら、実直で安定のクーベリックと共演するにふさわしい内容の深さ。とりわけこの第1番の協奏曲はピアノもさることながら、バックのオーケストラが重要なので、ピアニストひとりで充実した演奏を展開することが出来るものではありませんから、どうしても指揮者の存在が大きくものを言うわけです。mono録音ながら高音質。 Alexis Weissenberg 2番で挙げておきたいのは次の2枚― ブラームス:ピアノ協奏曲第2番 アンネローゼ・シュミット(ピアノ) ヘルベルト・ケーゲル指揮 ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団 1979.9.10-13 東独ETERNA 8 27 423 (LP) 日本コロムビア OX-7204-ND (LP) 日本コロムビア録音。ETERNA盤のジャケットにも"Co-Produktion mit Noppon Columbia, Tokio / Japan"との表示あり。 録音も良好。アンネローゼ・シュミットのレコードはこれしか持っていませんが、一見、クールなようでいて、次第に熱を帯びてゆくケーゲルの指揮との組合わせでかなりスケールの大きい演奏になっています。 Annerose Schmidt ブラームス:ピアノ協奏曲第2番 マイラ・ヘス(ピアノ) ブルーノ・ワルター指揮 ニューヨーク・フィルハーモニック 1951.2 live 日本コロムビア OW-7213-BS (LP)、キングインターナショナルKKC-4119/24 (6CD) オーケストラ名と録音年月はキングインターナショナルKKC-4119/24による。日本コロムビア盤の音源はワルター協会。ジャケットに"The Bruno Walter Society"の表示あり。オーケストラ名は管弦楽団とのみ、1951年の放送用live録音とあり、第1楽章及び全曲の後に拍手が入っている。 往年のブラームス演奏といった印象。ワルターの指揮はいかにもロマン主義音楽。 2番に関しては、ここでCDも一点、どうしても取り上げておきたい― ブラームス:ピアノ協奏曲第2番 アリシア・デ・ラローチャ(ピアノ) オイゲン・ヨッフム指揮 ベルリン・ドイツ交響楽団 1981.6.7,8 live WEITBLICK SSS0097-2 (CD) なぜか2番は女流ピアニストばかり(笑)これだけ「内面」を感じさせる演奏はほかにない。言っては悪いんですが、ラローチャの正規(セッション)録音はあまり指揮者に恵まれていたとは言えず、持っているレコードはソロばかりであったところ、これでようやくラローチャの協奏曲で満足できるものが見つかったというdiscです。オーケストラにはlive故の乱れもありますが、大きな問題ではありません。 Alicia de Larrocha de la Calle 引き続き、手許にあるものから― ブラームス:ピアノ協奏曲第1番 ダニエル・バレンボイム(ピアノ) サー・ジョン・バルビローリ指揮 ニュー・フィルハーモニア管弦楽団 1967.8.20-21 英EMI ASD2353 (LP) ブラームス:ピアノ協奏曲第2番 ダニエル・バレンボイム(ピアノ) サー・ジョン・バルビローリ指揮 ニュー・フィルハーモニア管弦楽団 1967.8.27-28 英EMI ASD2413 (LP) ブラームス:ピアノ協奏曲第1番 レオン・フライシャー(ピアノ) ジョージ・セル指揮 クリーヴランド管弦楽団 1958 独CBS S61 105 (LP) ブラームス:ピアノ協奏曲第2番 レオン・フライシャー(ピアノ) ジョージ・セル指揮 クリーヴランド管弦楽団 1960? 独CBS S61 046 (LP) ブラームス:ピアノ協奏曲第1番 クラウディオ・アラウ(ピアノ) カルロ・マリア・ジュリーニ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1960.4.21-23 英Columbia SAX2387 (LP) ブラームス:ピアノ協奏曲第2番 クラウディオ・アラウ(ピアノ) カルロ・マリア・ジュリーニ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1962 英Columbia SAX2466 (LP) ブラームス:ピアノ協奏曲第1番 クリスチャン・ツィメルマン(ピアノ) レナード・バーンスタイン指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1983.11 live DG 413 472-1 (LP) ブラームス:ピアノ協奏曲第2番 クリスチャン・ツィメルマン(ピアノ) レナード・バーンスタイン指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1984.10 live DG 415 359-1 (LP) ブラームス:ピアノ協奏曲第1番 ウラディーミル・アシュケナージ(ピアノ) ベルナルド・ハイティンク指揮 アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 1981.5 英DECCA SXDL7552 (LP) ブラームス:ピアノ協奏曲第2番 ウラディーミル・アシュケナージ(ピアノ) ベルナルド・ハイティンク指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1982.10 英DECCA 410 199-1 (LP) ブラームス:ピアノ協奏曲第1番 アルフレート・ブレンデル(ピアノ) ハンス・シュミット=イッセルシュテット指揮 アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 1973.5 英PHILIPS 6500 623 (LP) ブラームス:ピアノ協奏曲第2番 アルフレート・ブレンデル(ピアノ) ベルナルド・ハイティンク指揮 アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 1973.12 蘭PHILIPS 6500 767 (LP) ブラームス:ピアノ協奏曲第1番 アルトゥール・ルービンシュタイン(ピアノ) フリッツ・ライナー指揮 シカゴ交響楽団 1954 mono 英His Master's Voice ALP1297 (LP) ブラームス:ピアノ協奏曲第2番 アルトゥール・ルービンシュタイン(ピアノ) ヨーゼフ・クリップス指揮 RCAビクター交響楽団 1958.4.4 stereo 独RCA LSC-2296 (LP) ブラームス:ピアノ協奏曲第1番 ヴィルヘルム・バックハウス(ピアノ) カール・ベーム指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1953.6 mono 英DECCA LXT5364 (LP) ブラームス:ピアノ協奏曲第2番 ヴィルヘルム・バックハウス(ピアノ) カール・シューリヒト指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1952.5 mono 英DECCA LXT2723 (LP) 英DECCA LXT5365 (LP) ブラームス:ピアノ協奏曲第2番 ヴィルヘルム・バックハウス(ピアノ) カール・ベーム指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1967.4 stereo 英DECCA SXL6322 (LP) 同じピアニストで1番、2番の録音があるものを並べてみました。ここに並んだピアニスト、だれひとりとして私が特別に好む人はいません。フライシャー、アラウ、ブレンデルに至っては、レコードはこれしか持っていない。バレンポイムだってデュ・プレの伴奏があるくらい。 簡単にコメントを付けておくと― バレンボイムとバルビローリのレコード、じつを言えばこの盤では、耳がもっぱらオーケストラの音ばかり聴いていて、ピアノはオーケストラの一部のようにしか思えない。 アシュケナージとハイティンクの1番はたいへんな迫力と緊張感。かなり「勢い」で聴かせる傾向。これが2番になると、緊張感が緩んでくる。これは悪い意味ではありません、造形的なたるみがあるわけではない。遅めのテンポでロマン主義的な側面を重要視した演奏で、やや自己流解釈ながら細部まで入念。 ブレンデルはやはり伴奏指揮の違いでしょう、1番の方が圧倒的にいい。ハンス・シュミット=イッセルシュテットは1973年5月28日に亡くなっているので、2番はハイティンクに代わったものと思われます。なお、ブレンデルは1番、2番ともアバド、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団との再録音がありますが、聴いてません。 アラウはベートーヴェンの延長線上にある古典的造形重視。ジュリーニとは微妙に異なるコンセプト。1960年代初頭とあって、録音はいいですね。 フライシャー、セルのレコードがいいという声を聞いたことがありませんが、ピアノ、オーケストラともにやや明るめの音色ながら、次のバックハウスのような渋いというよりやや暗い響きの演奏とは対極にあり、これはこれで存在価値があると思います。 バックハウスは重厚派。いまとなっては古典主義音楽の造形ではありません。従って、私はこのピアニストのベートーヴェンは好みませんが、ブラームスはロマン主義音楽だと思えば、これはこれで悪くないと思っています。弛緩気味のstereo時代よりは、mono時代の、やはりシューリヒトとの2番がいちばんいいかな。なお、シューリヒト、ベームともに、バックハウスよりもはるかにモダンな感覚。 ルービンシュタインはむしろ嫌いなピアニスト(笑)ライナーとクリップスの違いが愉しい2枚。よくぞこれだけコントラストのついたレコードが並んだものだ。 ツィメルマン、バーンスタイン盤はDGの常で録音が平面的。個人的には演奏を云々する以前に聴き通すのがツラい。それはポリーニ、ベーム盤も同様。 以下は、今回、ひさしぶりに針を落としたレコード― ブラームス:ピアノ協奏曲第1番 マウリツィオ・ポリーニ(ピアノ) カール・ベーム指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1979.12.19-21 DG 2531 294 (LP) ブラームス:ピアノ協奏曲第1番 ギャリック・オールソン(ピアノ) クラウス・テンシュテット指揮 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 1978? 独Electrola 1C063-03 590 (LP) ブラームス:ピアノ協奏曲第1番 ヴィルヘルム・ケンプ(ピアノ) フランツ・コンヴィチュニー指揮 シュターツカペレ・ドレスデン 1957.5 東独ETERNA 8 20 024 (LP) チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番 ブラームス:ピアノ協奏曲第1番 ウラディーミル・ホロヴィッツ(ピアノ) ブルーノ・ワルター指揮 管弦楽団(チャイコフスキー) アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団(ブラームス) 1944 live(チャイコフスキー)、1936 live(ブラームス) BWS BWS-728 (LP) 日本コロムビア OZ-7546-BS (LP) ホロヴィッツのチャイコフスキーはおそらくニューヨーク・フィルハーモニック。ブラームスは第1楽章展開部(220~305小節)が欠損。BWS(ワルター協会)盤のジャケットには、ブラームスのピアノ協奏曲しか印刷されていないが、いずれも第1面はチャイコフスキー。強烈なインパクトを残す演奏には違いない。たまに聴くにはいい、爆演系の代表。 ブラームス:ピアノ協奏曲第2番 エドウィン・フィッシャー(ピアノ) ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1942.11 live 日本楽器 UNIC-102 (LP) やはり時代。クレシェンドでテンポを速め、デクレシェンドでテンポを落とす、悪く言えば大時代的な演奏。クライマックスで「爆発」するドラマティックなスタイル。それだけに、感情表現の深さでは随一。いやあ、だからこそ、残す価値があるんですよ。 最後に、クリフォード・カーゾンの第1番のLPとCDを。カーゾンの同曲は3種類の録音があるらしいが、私が持っているのは以下の2種― ブラームス:ピアノ協奏曲第1番 クリフォード・カーゾン(ピアノ) エドゥアルト・ヴァン・ベイヌム指揮 アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 1953.5-6. DECCA LXT2825 (LP) ブラームス:ピアノ協奏曲第1番 クリフォード・カーゾン(ピアノ) ヨーゼフ・カイルベルト指揮 ケルン放送交響楽団 1965.4.23 live MEMORIES MR2551/2553 (3CD) 今回取り上げたdiscは、ほとんどが個人的にはあまり興味を持っていないピアニストによるものばかり。やはりブラームスのピアノ協奏曲については作品が特別好きだから・・・かな。そんななか、アリシア・デ・ラローチャ、それにソロモン・カットナーとクリフォード・カーゾンなどはわりあい「好き」と言えるピアニスト。ソロモンとカーゾンは「132 モーツアルトのピアノ協奏曲 その1 LP篇」でもモーツアルトのピアノ協奏曲第23、24番のLPを取り上げていた。じつはその2枚を聴くとそれぞれのブラームスの協奏曲も取り出して聴きたくなる。高貴なまでの気品という点で群を抜く。英DECCA盤はEQカーヴがDECCAffrr。 Clifford Michael Curzon このほか、ルドルフ・ゼルキンとピーター・ゼルキンのdiscを取り上げるかどうか迷ったが、見送り。ルドルフ・ゼルキンは第1番を、ピーター・ゼルキンは第2番をナマで聴いたことがあり、残されている録音では、いずれもそのときの記憶に及ぶものではないので。また、舘野泉の第1番の2種類の録音については「107 舘野泉のレコード」を参照願います。 (Hoffmann) |