127 ワーグナー 「ヴェーゼンドンクの5つの歌」 その1 LP篇 詞はどうと言うこともないようなもので、楽劇「トリスタンとイゾルデ」の習作のような位置付けですが、やはり音楽にはすばらしいものがあります。もともとはピアノ伴奏版。 天使 Der Engel とまれ Stehe still ! 温室にて Im Treibhaus 悩み(心痛) Schmerzen 夢 Traeume 以上5曲中、ワーグナーが管弦楽伴奏版を作成したのは「夢」のみ、その他の4曲については、現在演奏されているのは指揮者のフェリックス・モットルによる編曲版です。 それではお気に入りのレコードを― ワーグナー:ヴェーゼンドンクの5つの歌 R・シュトラウス:四つの最後の歌 ハンネ=ローレ・クーゼ(ソプラノ) ヴァーツラフ・ノイマン指揮 ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 1964 東独ETERNA 825469 (LP) stereo Claus Strueben録音。 真っ先に取り上げたいのはこれ。歌も、オーケストラも絶好調。節度ある範囲内で、ドラマティックに高揚する。録音もたいへんよい。レコードで聴く限り、ノイマンはこのゲヴァントハウス時代がもっともよかったのではないか。 ワーグナー:ヴェーゼンドンクの5つの歌 クリスタ・ルートヴィヒ(メゾ・ソプラノ) オットー・クレンペラー指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1962.3.21-23 英EMI ASD 2391 (LP) stereo 英EMI SXLP2700001 (LP) stereo 独Columbia STC91365 (LP) stereo 一応それぞれの盤のカップリング曲を記載しておくと― ASD2391 マーラー:5つの歌 ブラームス:アルト・ラプソディ フィルハーモニア合唱団(ヴィルヘルム・ピッツ合唱指揮) これは残念、A面がアルト・ラプソディ、ヴェーゼンドンク歌曲と続いて、5曲めだけがB面になっている。 英EMI SXLP2700001 ブラームス:アルト・ラプソディ ワーグナー:イゾルデ愛の死 マーラー:5つの歌 "HMV Cocert Classics"シリーズ、廉価盤。 独Columbia STC91365 (LP) ブラームス:アルト・ラプソディ 同:ジプシーの歌 ジプシーの歌のピアノ伴奏はジェラルド・ムーア 表面隆起の危険のある盤だが、10数年前に入手していまのところ問題ない。 "Schmerzen"の冒頭で声を張り上げても均質を保つのは、さすがルートヴィヒ。知情意のバランス。 ワーグナー:ヴェーゼンドンクの5つの歌 マーラー:リュッケルトによる5つの歌 イヴォンヌ・ミントン(メゾ・ソプラノ) ピエール・ブーレーズ指揮 ロンドン交響楽団 1979.5 独CBS 74092 (LP) strereo この時期のCBSでのブーレーズ録音では、なぜか声楽になると、歌手の音像が肥大化する。もっともひどいのがベルリオーズの「夏の夜」ほかのレコード。これもミントンの声は録音で著しく損なわれている。もう少し輪郭くっきりととらえられていたら、知的でクールな演奏の代表になったのではないか。 ワーグナー:「神々の黄昏」からブリュンヒルデの自己犠牲 同:ヴェーゼンドンクの5つの歌 アイリーン・ファーレル(ソプラノ) レナード・バーンスタイン指揮 ニューヨーク・フィルハーモニック 1961.9.30 米Columbia MS6353 (LP) stereo 左上に穴の空いたcut盤。売れ残ったんですね(笑)ちなみにバーンスタインのワーグナー集米Columbia盤3枚組、日本コロムビア時代の国内盤も手許にあります。 アイリーン・ファーレルは「あえて聴くmono盤 その7」でミュンシュの指揮による「ブリュンヒルデの自己犠牲」を歌っていましたが、特段ワーグナーを得意にしていたドラマティック・ソプラノということではなくて、ここではめずらしい、ちょっと可憐な歌。 ワーグナー:ヴェーゼンドンクの5つの歌 同:「ローエングリン」「パルジファル」「ワルキューレ」から キルステン・フラグスタート(ソプラノ) ハンス・クナッパーツブッシュ指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1956 米LONDON 5259 (LP) mono 米LONDON OS25101 (LP) stereo いずれも"Kirsten Flagstad Wagner Recital"の表題で、英プレス。EQカーヴはRIAA。OS25101はいわゆるBB盤。 これはさほど好きなレコードでもなくて、今回は取り上げないつもりだったのですが、次のレコードとの比較で― ワーグナー:ヴェーゼンドンクの5つの歌 キルステン・フラグスタート(ソプラノ) オイヴィン・フェイルスタート指揮 オスロ・フィルハーモニー管弦楽団 1951.12.16 日コロムビア OS-7120-BS (LP) mono カップリングは、「トリスタン」から(ジョルジュ・セバスティアン指揮、ベルリン放送管弦楽団、1952.5.9)、「神々の黄昏」からブリュンヒルデの自己犠牲(ブルーノ・ワルター指揮、管弦楽団、1952)、「フラグスタート、ワーグナーを語る」(1949)。 レコード番号が示すとおり、"The Bruno Walter Society"原盤。 これがすばらしいんですよ。やや大げさに言えば、クナッパーツブッシュとの録音は、ぶっきらぼうな指揮に引っ張られたものか、あまり細かいことは気にしないで朗々と歌っている印象で、対して1951年はかなり細やかな表情と情感を大切にしたといった歌唱です。"Traeume"なんて、本当に夢見るようなphantastischesな歌。 ワーグナー:ヴェーゼンドンクの5つの歌 同:「ローエングリン」「ワルキューレ」「パルジファル」から レジーヌ・クレスパン(ソプラノ) ジョルジュ・プレートル指揮 フランス国立放送管弦楽団 1961.2.27, 4.10,11,13 Pathe Marconi(EMI) 2C069-16320 (LP) stereo これは歌手もオーケストラも、すべてにおいて軽量級。フラグスタートのDECCA録音と同じような選曲。 ワーグナー:ヴェーゼンドンクの5つの歌 シベリウス:Ausgewaehlte Lieder イングリット・ビョーナー(ソプラノ) Einar Steen-Noekleberg(ピアノ) 1984.10 独Sound Star-ton SST0178 (LP) stereo 録音の少ないイングリット・ビョーナー。ピアノ伴奏版。もともと太い声で咆哮するような歌手ではありませんが、ここではピアノ伴奏なのでなおさら、無理に声を張り上げる必要がないわけで、おかげで今回取り上げたなかでも特異な位置を占める好演となっています。その表現の深い味わいでは随一の盤。 ワーグナー:ヴェーゼンドンクの5つの歌から「天使」「温室にて」「苦しみ」「夢」 ヴォルフ:歌曲集 (1935年~1941年) ロッテ・レーマン(ソプラノ) パウル・ウラノフスキー、エルノ・バロック(ピアノ) 日ARTISCO C22G0008A (LP) 以前、取り上げたことのある、ARTISCOレーベルの疑似stereo盤。 ワーグナーの伴奏はウラノフスキー。「天使」「温室にて」「苦しみ」「夢」の4曲のみで、残りの一曲「とまれ」"Stehe Still !"だけ録音しなかったのか、原盤の不備かは分かりませんが、全曲でないのが惜しい歌唱です。スタイルは古いのですが、この時代に歌手にしか求められない、楽曲に込められた熱情とも言うべきものが貴重。 レコード(LP)を再生した装置について書いておきます。 今回mono盤はカートリッジをortofon CG 25 Dで、stereo盤ではortofonのSPU GTEで再生。スピーカーはmono盤、stereo盤ともSiemensのCoaxial、いわゆる「鉄仮面」をチャンネルあたり2基の後面開放型Sachsen 202を使用。stereo盤は一部、TANNOYのMonitor Gold10"入りCornettaでも聴いています。 また、今回はあまり古い盤がなかったので、EQカーヴは今回すべてRIAAで問題ありませんでした。 (Hoffmann) |